異性としての魅力の第一条件は、まるまる太っていること

メスの観点から見ると、成功する見込みの高いオスを選ぶことが肝要です。ペンギンで言うところの成功とは多くの場合、巣で卵を温め続けるのに必須である絶食期間を耐え忍ぶことができる、ということを意味します。つまりペンギンの場合、メスが異性としての魅力を感じる相手は、まるまる太ったオスなのです。

ペンギンのメスは、太い声で鳴くオスを好みます。身体の大きなオスは胸腔も大きいですから、結果的に声が太くなります。そして体格が大きければ、燃料タンクも大きいわけで、大きなオスを選ぶことで、巣に座り続けるパワーを少なからず確保できるはず、と考えるのは当然と言えるでしょう。

つまり、メスにとって本当に必要なのは、大きく、かつ太ったオスです。オスがどのくらい太っているか、その鳴き声からメスが判断することは、少なくとも理論上は可能です。鳴き声は、鳴管と呼ばれる、人間の喉頭に相当する鳥類特有の器官を用いて発せられます。鳴管は上胸部にあり、上胸部と言えば脂肪を多く蓄積できる部位でもあります。鳴管を取り巻く脂肪の量が多ければ多いほど、鳴き声の聞こえ方も大きく変化し、高周波音が吸収され、鳴き声は単調に聞こえます。

メスが選り好みを繰り返した結果オスが大柄になった

ペンギンのメスは、太く、単調な鳴き声を聞き分けることによって、理想のオスを見つけることができるのかもしれません。このようなシステムの利点は、ペンギンのオスは、パブで騒ぎたてる酔っ払いと違い、うそをついたり、ずるをしたりできない、ということです。鳴き声のありさまは真実の姿によって決まりますから、オスがどれだけ多くの資源を持ち合わせているか、あるいは身体各部位がどれだけ大きいか、ほらを吹くことはできません。

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このような選り好みが繰り返された結果、オスはメスよりも大柄になりました。体格の性差は、オスが絶食しなければならない期間が最も長く、選り好みをすることでメスが最も恩恵を受ける種類のペンギンで、最も顕著に表れています。オスとメスは外見上は同じに見えますが、体格とくちばしの大きさに微妙な差があるということは、ペンギンといえど、性淘汰の影響と無縁ではない、という事実を私たちに気づかせてくれます。