詭弁と屁理屈ばかり

大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法』(日本法令)より(漫画=榎本まみ)

モラトーク・その⑦ 理解できないお前が悪い
被害妻がモラ夫の言い分を理解できないと、「理解できないお前が悪い」「理解力がない」などと批判する。たとえ自らの言い分や言い方が支離滅裂で非論理的でも、問題は妻の理解力にあると言い張る。

モラトーク・その⑧ 「普通」で押し切る
自らの価値観を「普通」として、「ここは普通、お前が謝るところだろ」などと謝罪させたりする。モラ夫の言う「普通」は、しばしば世間の一般常識からかけ離れることもあるが、それでもモラ夫は「普通」と言い張る。

モラトーク・その⑨ 俺に言わせれば、それは間違っている
これは、どんな独善的な結論とも結合する万能の屁理屈である。「普通」というには余りにも独断的な言い分や偏見であるとき、妻の反論に言い返せないときには、このように「俺様基準」を持ち出す。

はっきり言おう。以上のモラトークのどれもが、詭弁きべんあるいは屁理屈である。ところが、モラ夫の立論の根拠を疑うと、モラ夫は「俺の言うことを疑うのか」「何様のつもりか」などと怒り出すので、妻は迂闊には疑えない。他方、妻の主張については、「証拠」「エビデンス」などを求めるので、妻は証拠がないと自分の主張を言い出せなくなる。

このように、モラ夫にはルールがなく、言いたい放題である。他方、被害妻は反論を封じ込まれているので、被害妻がモラ夫に言い負かされるのは、当然のことなのだ。

洗脳が抵抗力を奪う

大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法』(日本法令)より(漫画=榎本まみ)

日本の女性たちの多くはモラ文化の中で育てられ、幼少時には親の許可、結婚すると夫の許可を得るように躾けられている。妻(女性)は我慢するものと教え込まれ、結婚後も我慢強い。あるいは、モラハラの激しい家庭で育つと、夫婦像、結婚像が歪み、そもそもモラハラに気がつかない。

モラハラの概念も相当広がってきてはいるが、支援側の「モラハラは、精神的DV、精神的虐待」とのキャンペーンが仇となって、はっきり虐待といえるほどでないとモラハラではないとの誤解も蔓延している。

ちなみに、この誤解は法テラスや家庭裁判所などにも存在する。実は、一見ソフトな、あるいは虐待とまではいえないように思えるモラハラであっても、それが日常的に繰り返し行われることで強い毒性を持ち、被害妻の心身に深刻な影響を及ぼす。だが、このようなソフトモラは、「精神的虐待」とまではいえないとして、見過ごされることになる。日常的繰り返しによる強い毒性は、より目に見えにくいのだ。

そして子どもができると、「3歳児神話」(子どもが3歳までは母親が育児に専念すべきという主張)や「離婚家庭の子は不幸」などの思いに縛られ、被害妻は「私さえ我慢すれば」と自分の心を殺していく。

多くの被害妻は、モラ夫と同居している間は、自らの心身が蝕まれていることに気がつかないことが多い。そして、日々非難され、罵倒され続けると、「自分が悪い」と思い込み始める。つまり洗脳である。