親、学校、社会から受けた“洗脳のシャワー”
ブレインロックは、無意識のうちに誰もが持っているものです。なぜなら、幼少期には親から、学生になると学校やメディアから、社会人になると企業などから絶え間なく与えられる有形無形のメッセージによって、知らないうちに自分の中に形成されるものだからです。
なかでもこのブレインロックを強固に持っているのが、社会変化の端境期に育った氷河期世代です。
昭和の時代に幼少期を過ごしたこの世代は、親や学校から「男らしく、女らしくしなさい」「学歴がないとよい企業に就職できない」「嫌なことも我慢しなさい」「年上の言うことは黙って聞くもの」などと、理不尽な“洗脳のシャワー”を絶え間なく浴びてきました。
氷河期世代が思春期から成人になるころに昭和が終わって平成となり、一気にインターネット社会になりました。既存の古い慣習やしきたり、社会を動かすルールが大きく変容することになっていったのです。
個性の尊重や多様性という価値観が“当たり前”になっている現代の10代、20代の若年層にしてみれば、「時代遅れ」「非論理的」としか思えない「古い価値観」のシャワーを強烈に浴びて育った、最後の世代と考えて間違いないでしょう。
やっかいな「氷河期世代の上司」
氷河期世代が幼少期から青年期であった当時は、インターネットはまだ普及しておらず、情報源は家庭や学校・地域のコミュニティ、もしくはテレビぐらいでした。そのため、いまとなっては「いびつな価値観」に疑問を持つこともなければ、多種多様な考え方に触れる機会もありませんでした。
そんな旧来の価値観を徹底的に刷り込まれ、十分にアップデートできずにきた氷河期世代が、社会に出て、年齢を重ね、マネジメント層になることで、昨今ではさまざまな問題が顕在化するようになってきました。
「男らしく女らしく」という価値観からセクハラ発言をしてしまったり、「努力や忍耐こそ至上」という価値観から無理難題を押しつけるようなパワハラをしたり……。
しかし、本人たちにはまったく悪気はありません。「カラスは黒い」というくらい、無意識に、当たり前に認識してしまっているため、誤りであると指摘されると本人は驚いてしまうのです。
「いったい何が悪いのかまったくわからない……!」と。
無理もありません。氷河期世代は、時代を支配する価値観が大きく変化する2つの時代をまたがって生きてきたのです。その事実に気がつかないままでいれば、当然ながら、現在の社会でスムーズに人間関係を築いたり、うまく能力を発揮したりすることはできません。
このように、①不遇な時代に社会人としてのスタートを切ったこと、そして、②強固なブレインロックのために価値観の変容についていけていないこと──この二重苦が、氷河期世代の生きづらさを生んでいるのです。