イノベーションは「革命」ではない

そうです。シュンペーターは、決して「革命」を唱えていたわけではありません。

そもそも革命は、英語でいえば「revolution」で、「revolve(ひっくり返す)」が語源です。それは、シュンペーターが目指すイノベーションではありません。

マルクスの思想に強く共感しながら、シュンペーターが一線を画したのは、この「革命」という方法論への抵抗があったためです。

写真=iStock.com/clu
経済学者・マルクス(1818-1883)の肖像画。資本主義の先に革命が起こり、社会主義、共産主義に移行すると唱えた。

シュンペーターが唱えるイノベーションは、むしろ「evolution」、すなわち「進化」に近い概念です。ただし、進化が自然発生的に起こるものであるのに対して、「development」は人為的に起こすものです。

シュンペーターが『経済発展の理論』を通じて唱えた社会経済の進化論は、その後、複雑系理論や進化経済学の系譜に受け継がれていきました。自己組織化、創発型組織などといった最新の組織論は、100年前のシュンペーターの思想が源流となっているのです。

「発明」は可能性の数を増やすだけ

革命(revolution)でなく発展(evolution)であるという点は、現代の経営の現場にとっても、3つの点で重要なメッセージが込められています。

まず第一に、イノベーションは「ゼロからの創造」ではないということです。

発明(インベンション)は、イノベーションとは本質的に異なります。なぜなら、イノベーションの本質は、新しいものを発明することではなく、今あるものを新しく組み合わせることにあるからです。これをシュンペーターは「新結合」と呼びます。

これはイノベーションを目指す多くの自称アントレプレナーが、誤解している点なので注意が必要です。

シュンペーターは、本書の中で「アントレプレナーと発明家の役割はまったく違う」と論じています。「発明は無数の可能性の数をただ増やすだけでしかない」とし、大切ではないとも語っています。

アントレプレナーの役割は、それらの無数の可能性の中から、「筋の良いもの」を組み合わせて、実際の社会経済活動に実装していくことにあります。言い換えれば、決断と実践こそがアントレプレナーの本質的な行動原理です。

今、新規事業のネタを求めて「アイディアコンテスト」や、プログラマーたちが集まって短時間でアプリやソフトウェアなどを作りだす「ハッカソン」などがあちらこちらで開催されています。しかし、そこから「筋の良い」事業が生まれることは、まずありません。アイディア(発想)は発明同様、無数の可能性のひとつに過ぎないからです。そのままではゴミの山ができるだけです。