子宮内にラクトバチルスが多いほど妊娠率が高まる

子宮内の理想的な菌のバランスは、善玉菌であるラクトバチルスが90%以上を占めている状態と言われています。ラクトバチルスは細菌性膣炎や性感染症、慢性子宮内膜炎などを引き起こす細菌の活動を抑えて子宮内環境を整える役割があり、ラクトバチルスが多ければ多いほど妊娠しやすいのです。腸内フローラは多様性があるほど健康的とされていますが、子宮内フローラは、逆に多様性に乏しいほうがいいのです。

写真=iStock.com/Sofiia Petrova
※写真はイメージです

実際、子宮内フローラの90%以上をラクトバチルスが占めている女性と、そうでない女性の妊娠率・生児獲得率を比べたデータがあります。妊娠率は子宮内フローラ正常群が70.6%、異常群が33.3%、生児獲得率は子宮内フローラ正常群が58.8%、異常群が6.7%と大きな開きがあります。

不妊治療現場での子宮内フローラ検査の活用法

子宮内にどんな菌がどれくらいの割合でいるのかを調ベるのが、「子宮内フローラ検査」です。われわれもこの検査を取り入れていますが、医師が子宮体がん検査と同様の器具を使い、子宮内膜上の粘液を採取し、ゲノム検査会社に送って調べます。

子宮内はもともと菌自体の数が少ないため、これまで無菌状態だと考えられてきたのですが、この検査では解析が困難とされていた子宮内の菌叢を網羅的に調べることができます。

どんな菌がどれくらいの割合でいるのかが詳細にわかると、従来の検査ではわからなかった不妊原因がわかったり、着床に適した子宮内環境を整えたりする判断材料になります。また、慢性子宮内膜炎の治療で抗菌剤を使う際にも、菌の種類が特定できるので効きやすい抗菌剤が選択できるメリットもあります。

われわれの施設ではなかなか妊娠しにくい人に子宮内フローラ検査をおすすめしていますが、妊活前にスクリーニング検査として取り入れている施設もあるようです。

慢性子宮内膜炎検査と子宮内フローラ検査を併用するとさまざまな利点があります。慢性子宮内膜炎の検査は炎症の有無を調べる検査なので、炎症を引き起こした菌を特定することまではできません。よって、炎症があれば抗菌剤を投与しますが、そのときに善玉菌のラクトバチルスまで殺菌されてしまいます。

子宮内フローラ検査を行うと、良くない菌が認められたとしても、全体的な菌のバランスがそれほど悪くなければ、抗菌剤を使わず、ラクトバチルスの腟錠を入れたり、ラクトバチルスの餌となるラクトフェリンのサプリメントを摂取したりして、善玉菌を増やすアプローチで子宮内環境を整えることが可能になります。それによって、過剰な抗菌剤の投与を避けられるケースもあります。