夫に扶養される妻への優遇策

80年代は、専業主婦やパート労働を行う妻たちへの優遇策が次々と作られた時代でもあった。

1980年には、相続の分野で「寄与分」制度が創設された。夫が死亡した際、夫の療養や介護に尽くしたとされる相続人(多くが妻)には、特別に与えられる相続財産の持ち分が「寄与分」として新たに作られ、寄与相続人は、寄与分と自身の相続分と両方を取得できることになったのだ。あたかも介護を家庭で担ってくれたことへのお礼、あるいはご褒美として。

まさに、菅義偉が総理就任時に掲げた、「自助」を第一に据える姿勢そのものだ。国に頼らず、自分たちで何とかしろという。

税制面でも、優遇制度が作られていく。1987年創設の「配偶者特別控除」だ。

それまでは、「配偶者控除」というものが存在していた。配偶者控除の創設は、1961年。生計を一にする妻がいる場合、夫が支払う所得税を計算するにあたって、所得から一定金額を差し引くことができるという仕組みだ。課税所得が少なくなるわけだから、夫が納める所得税や住民税が少なくなる。

ではなぜ、この配偶者控除なるものが必要とされたのか。創設の前年にあたる1960年12月に出された、税制調査会の答申などにこう書かれていることが、北村美由姫さんの論考、「配偶者控除についての一考察」で紹介されている。以下、引用する。

「妻とは『単なる扶養親族ではなく、家事、子女の養育等家庭の中心となつて(ママ)夫が心おきなく勤労にいそしめるための働きをしており、その意味で夫の所得のか得(ママ)に大きな貢献をしている』者であるのだから、扶養親族と見るのは不当である」

こうしたことを踏まえ、北村さんはこう指摘する。

「この配偶者控除創設の考え方の根本には、『税法上「妻の座」』を認め、妻の役割をより一層明確にするという、『妻の座確保』政策があったことがはっきりとわかるのである」

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女性が103万円以上稼ぐのが許されないシステム

よく「103万円の壁」と言われるが、これは配偶者控除の要件が、配偶者の収入金額が年収103万円以下ということを指している。103万円以下なら、38万円を控除額として夫の所得から差し引くことができるというもの。

1987年に、新たに「配偶者特別控除」なるものが創設されたのは、パート労働で103万円の壁を超えてしまった場合、配偶者控除が受けられなくなり、結果として世帯の所得が減るという事態が起きるからで、そこで妻たちは、103万円を超えないように就業を調整するようになる。1980年頃から、こうした「パート問題」が発生していたと、前出の北村さんは指摘する。

そこで「配偶者特別控除」を創設して、妻の収入状況に応じて、103万円以上の収入がある場合でも使える制度を導入して「パート問題」を解決するとともに、サラリーマン世帯の減税を図ろうと意図したのだ。

配偶者控除の枠を1円でも超えてしまうと全く控除がなくなるのではなく、一定レベルまでは控除額を維持し、その後、段階的にゼロにしていく制度が配偶者特別控除で、納税者の所得金額と配偶者の所得金額で控除額が変わるというシステムとなっている。