使用者は「ゾンビ」と敬遠されるドラッグ

それぞれの薬物の作用について、イメージだけでも理解してもらえたでしょうか。健太の言葉は少々大げさで、極端とも言えます。でも、私はなぜか共感できるのです。多くの使用者に接するなかで、このような具体的な供述は少なくありません。

私が「コカインやMDMAはどうなんだ。危険ドラッグもやったのか?」と、その使用感を尋ねると、健太は悪びれることなく続けました。

「コカインはハリウッド映画にもよく出てくるお洒落なドラッグで、鼻からスニッフィングして使うだろ。効果は覚醒剤と似ているけど、20~30分しか持たないから、覚醒剤の方が安あがりでいいな」
「MDMAはあまり好きじゃない。若い頃はクラブに繰り出すときの必須アイテムだったけどさ。若い奴向けのドラッグだよ。元気が漲って、なぜだか周りの連中に親近感を覚えるんだ。例えばクラブで1錠飲んだとしよう。30分もすると、見ず知らずの奴らと一緒になって騒いでる。でも、なぜかクスリが効いている間は、歯を食いしばったり、歯ぎしりをしてしまう。クスリが切れるとなんとも言えない焦燥感に襲われるね」
「ちなみに、危険ドラッグは本当に危ないよ。アメリカにいるとき、“合成大麻”と呼ばれるスパイスゴールド(商品名:合成カンナビノイド類の一種がハーブに添加されている)を試してみたけどさ。たった2、3服で意識がブッ飛んだ。大量に吸引した友達が突然、“ウォー!”と喚きながらバスの下に潜り込んで、地面に頭をぶつけだしたこともあった。血だらけになっても、なおガンガンと叩きつけている。危険ドラッグは簡単に人を狂わせてしまうドラッグだ。使用者は“ゾンビ”と気味悪がられていたし、流行期には多くの死者が出てるだろ。あれはドラッグじゃない、ただの毒だよ!」

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いずれも「なるほどなぁ」と、的を射た話に思えました。

覚醒剤の魔力に取りつかれた男の最期

語学に興味があり、海外の庶民文化を学びたいという思いから、バックパッカーになった健太。旅先で気が緩んだのかは分かりませんが、マレーシアのペナン島で知り合った現地の男の誘いで大麻を覚え、一気にドラッグの深みにはまっていったそうです。

ネパールのポカラでは“ロイヤルネパール”というTHC濃度が高い大麻に出会い、ますます大麻通に。その後、タイのパタヤでヤーバ(錠剤型覚醒剤)、クラトム(幻覚剤ミトラギニンを含む植物:日本では指定薬物として規制)などの薬物に接し、ロサンゼルスやロンドンでは、コカインやMDMA、LSDを経験します。

大学卒業後、再び訪れた東南アジアでヘロインに溺れ、地獄の苦しみを味わいます。施設に入って何とか立ち直ったそうですが、帰国後、今度は覚醒剤の注射使用に嵌ってしまいました。そして、入退院を繰り返し、最後には心臓病で命を落としています。「肝臓をはじめ全身の臓器に障害が出ていた」と彼の姉は話していました。