「禁断(退薬症状)が一番きついのはヘロインだね。心も身体もズタズタになる。ヘロインを注射するとなんとも言えない暖かさと幸福感が味わえるけど、効果が切れた瞬間、一気に地獄に突き落とされる感じ。骨や臓器がバラバラに引きちぎられるような激痛に襲われてね、皮膚も冷えきって体毛が逆立つんだ。涙と鼻水が止まらないし、下痢だって続く。“助けてくれ、許してくれ”と何度、神様にお願いしたことか。解毒施設に入所して何とか立ち直ることができたけど、ヘロインだけはもう二度と御免だね」

渋滞にはまった車内で各種ドラッグをやるとどうなるか

健太は、さまざまなドラッグの効き目について、「例えば深夜、新宿駅に向かって新宿通りを車で走行中、新宿三丁目の交差点あたりで渋滞が発生したとしよう。そんなとき、車内でドラッグをやるとどうなるか」などと、体験談を交えて語ってくれました。

「まず、覚醒剤を注射すると、気分が高揚して全身に力がみなぎってくるんだ。眠気がすっ飛んで疲れも感じなくなる。ところが、そのうち、ちょっとした渋滞にもイラ立つようになる。スマホをいじって気分を紛らわそうとしても、イライラは募るばかり。前の車に向かって“何やってんだ、早く行けよ!”と叫びたくなる。クラクションを鳴らすこともあるし、対向車がハイビームを向けて走ってきたら無性に腹が立って“コラー!”と怒鳴りたくなるからね。喧嘩しても負ける気がしない。車が流れ出すと、思わずアクセルを踏み込んで、前の車を一旦あおってから追い越す。後ろからパトカーが迫ってくると、“おいおい、追いつけるのか? きてみろよ!”と叫んでしまうかもしれないね」
「これが大麻の場合は全く違うんだ。渋滞に関係なくリラックスしてくる。“そんなに急いでどうすんだよ。ゆっくり走ろうぜ”ってね。車内に流れる音楽が繊細に聞こえて、“いいね! この曲”と口ずさんでしまう。効き目の強い大麻リキッドを何服か吸うと、ネオンサインや対向車のヘッドライトがキラキラして、イルミネーションを眺めているような錯覚に襲われるんだ。でも、ハッキリ言って到底、まともな運転はできないな。とにかく反応が鈍くなるから事故を起こすこと請け合いだよ」
「LSDだって? あれは大麻よりもっと強烈だな。時間の感覚がなくなって、光の渦のなかに放り込まれたみたいに、幻想的な雰囲気に包まれるんだ。走り去って行く対向車のライトが残像となって目の奥に残るし、信号が巨大化して襲って来ることもある。まぁ、何がなんだかワケが分からなくなるわけ。そのうちに運転中という意識も消し飛ぶから、LSDをキメながらハンドルを握るなんて殺人行為だよ!」

ちなみにヘロインの場合は、「キマっている最中は暖かい毛布に包まれているような感じで、身も心も軽くなって雲の上を彷徨っていると錯覚する。まぁ、運転なんかは無理だね。居眠り運転するだろうから」だそう。

すぐにイラつくのは覚醒剤、不安になるのはヘロイン

健太はさらに場面を変えて話を続けます。例えば、渋滞を抜けて家に帰り着いたものの、玄関の鍵を忘れたことに気づいた。なかには妻がいるはずだけど、チャイムを鳴らしても一向に応答がない。こんなときはどうなるか――。

「覚醒剤だったら、すぐにイラつきが始まって、それが怒りに変わってくる。扉をドンドン叩きながら“帰ったぞ、開けろ!”と繰り返し大声で叫ぶだろうね。自宅が戸建てなら庭に回って窓をガタガタ力任せに揺するはず。そのうち“もしかして、俺を閉め出して浮気してるんじゃないか?”という猜疑心に襲われて、“オイコラ! ぶち壊すぞ!”と叫びながら窓を割って侵入するかもしれない」
「その点、大麻ならさほど気にならない。“どうしたのかな? 眠いけど、まぁ、いいか。夜風に吹かれてもう1本吸うか”と、こんな感じだ」
「LSDの場合は、そもそも自分がどこにいるかもよく分からないからね。鍵穴を覗き込んで“あー、これ、万華鏡じゃねえか。すげー”と引き込まれて行くだろう。それどころか、煙になって鍵穴から部屋に入って行く自分を見ることができるかもしれないよ」
「そのまま玄関に横たわって幸福感に浸り続けるのがヘロイン。ポワンとした気分のままね。ところが、意識の片隅で“もし効果が切れてきたらどうしよう。残りのブツは部屋の中だ。部屋に入れなければ地獄が始まる……”と大きな不安に襲われるようになるだろう」

廊下の床に座っている動揺した男
写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです