変異株に紛れて見逃されている重大な感染症とは
もちろんこれらの診療方法でも、「発熱者お断り」の診療所に比べれば患者さんにとっての利便性は高いといえようが、新型コロナ上陸以前に一般的に行われてきた診療と比較すれば、その診断と治療のレベルはかなり低いものとならざるを得ない。
これによって「コロナ陰性」とのお墨付きや薬はもらったものの、本来の疾患が見逃されてしまっている患者さんが発生するという、新たな問題がポストコロナにおいて生じてしまっているのだ。
この2年は新型コロナウイルスの感染拡大にばかり目を奪われていたから、他の感染症のことはあまり話題に上らなかった。発熱と咽頭痛などの症状があれば、まず新型コロナウイルス感染が疑われてしまうという状況でもあった。しかし当然ながらこれらの症状を呈する疾患は、新型コロナウイルス感染症だけとは限らない。「普通の風邪」ということもあろうし、扁桃腺炎であるかもしれない。そして忘れてはならないのが、子どもたちの間でこの時期に増える、溶連菌感染症だ。
身体診察がなくなったことで急速に広がる恐れ
この感染症は比較的メジャーゆえ、とくに小さなお子さんのいる親御さんにはよく知られているだろう。保育園や幼稚園、小学校でも、インフルエンザほどの集団感染はしないにせよ、子どもたち同士でうつし合ったり、子どもが家庭内に持ち込んだりすることで大人の家族にも感染が広がることがある。
典型的な症状は、発熱と咽頭痛そして頸部リンパ節の腫脹だ。これらがあってノドの粘膜が真っ赤になっており、舌に小さな発疹がありイチゴのようになっていれば、ほぼ診断は間違いない。しかし症状には個人差があり、水も飲めないほどノドを痛がることもあれば、熱だけということもあるので、典型的な症状を呈しておらず、とくに感染者と接触歴のある患者さんについては、咽頭拭い液を用いた迅速検査を行ったほうが診断は確実だ。
「溶連菌感染症」との診断がつけば抗菌薬を処方する。通常、抗菌薬を内服すると1〜2日で症状は劇的に改善もしくは消失するが、ごくまれにリウマチ熱や急性糸球体腎炎という合併症を引き起こすことがあるため、症状が消えてもそこで内服をやめてしまわずに5〜10日間内服を継続すべきとされている。
このようにある程度の臨床経験を積んでいれば、それほど診断や治療に難渋する感染症ではないのだが、コロナ上陸後に少なくない診療所が、患者さんの身体診察を直接しなくなってしまったことから、この感染症の教育機関や家庭内での広がりが把握しづらくなっているのではないかと私は懸念している。