持続可能な食料システム構築のためには
ウクライナの穀物問題を発端として、世界の穀物を巡る矛盾をここまで見てきました。その中で短期的には、ウクライナ穀物輸送をなんとか再開し、穀物貿易を回復させ世界の食料システムを安定化させる必要があります。しかし中長期的には、ウクライナ危機をきっかけに世界の食料貿易を見直し、今後のより持続可能な食料システムを構築していく必要があると言えます。
では持続可能な食料システムへの道のりを私たちはどのように達成していくことができるのでしょうか。最後にその道のりへの提言をまとめたいと思います。
1.まずウクライナ危機以前から存在していた世界の食の格差を考える必要があります。
穀物価格が高騰していても、食料危機は世界全体には広がっていません。世界では9億人が餓える一方で6億人が肥満の状況にあり食の格差が存在しています。こうした格差をまず是正する必要があると言えます。
2.次に必要なのは、脆弱で過度に中央集権的な世界の食料システムの是正です。
小麦やトウモロコシはコメとともに、世界で消費されるカロリーの半分を占め世界3大穀物と呼ばれます。しかしこれらの穀物の輸出は少数の国に集中し、ほんの一握りの商社によって世界中に出荷されています。
さらに機能不全に陥った小麦などの一次産品市場の問題もあります。金融投機家が商品投資に飛びつき、食料価格の上昇を引き起こしているという批判があるのです。一方、世界の穀物取引の大部分を支配する穀物メジャーは、大量の穀物備蓄を保有していますが、それを公的に報告しないため、世界の食料備蓄を明確に把握できず、食料価格高騰の要因となっていると批判されています。
日本はこの状況下でも輸入依存の姿勢を大きく変えていない
3.そして真に必要なのは、食の多様化や市場の透明化に加え、食の流通の寡占や集中を下げる措置です。
上述の問題の上に、紛争、気候変動、貧困の悪循環が重なり、食料危機が深刻化する可能性があります。現在の食料システムは、規模の経済や利潤を生む効率性はあっても、その一部に混乱が生じた場合、連鎖的な影響を及ぼし特に弱い立場の人々にとっては、安定的でないのです。
こうした世界の食料システム欠陥は、2007-2008年の食料価格危機の際にすでに指摘されていました。しかし企業関係者のロビー活動の圧力に屈し、各国はそれらに適切に対処できてきませんでした。食料システムを安定化させるには、過剰な商品投機の規制と、市場の透明性を高め、流通における集中度を下げる措置が必要と言えるのです。
最後に重要なのは、こうした現在の食料システムを多様化させしていくことと言えます。多様性は、代替の選択肢を提供し、リスクを分散させます。この視点を日本の食料・農業政策に当てはめるとどうなるでしょうか。
日本政府は6月下旬、農林水産業・地域の活力創造本部を開き、今後の農政の方向として、食料安全保障を柱に位置付け肥料など生産資材の価格上昇の対策への支援、食料の安定供給の確保に向けた対策を総合的に検討するとその骨格を示しました。その内容は4月にまとめた物価高対策と、中長期的に資材の安定確保、輸入に依存する小麦や大豆などの増産となっており、これまでの農政の方向性を一定程度転換するものとなっています。
しかし食料や農業資材を輸入に依存する方向性は抜本的には変えておらず、食料価格高騰の長期化が見通される中で不十分な対応であり、日本の食卓に大きな影響を与える可能性があります。