ウクライナ侵攻は世界の飢餓水準を劇的に悪化させた
こうした中で6月26日~28日にドイツ南部エルマウで先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開催され、ウクライナの穀物問題も食料安全保障の分野で主要議題として議論されました。最終日の28日には、首脳声明とは別に、食料安全保障に関する声明(以下、声明)が特別に採択され、飢餓に直面する人々を守るために45億ドル(約6100億円)を追加で拠出することが決定しました。
声明では、「ロシアのウクライナに対する侵略戦争は、飢餓の水準を劇的に悪化させた」と非難し、ロシアによるウクライナの穀物輸出の阻止を直ちに停止することが要請されました。また対ロ制裁で食料を標的としないことも表明されています。G7の食料安保に関する資金提供はこの追加拠出を含めると総額140億7500万ドル(約1兆9000億円)に上るということです。
声明の内容は、拠出金の追加の他には、ウクライナ農産物輸出再開や代替ルート確保のための協力の方向性が示されました。特徴的なのが追加拠出のうち、半分以上(27.6億ドル)を米国が拠出したことです。米国は、新たに発表した27.6億ドルの人道的・経済的追加支援のうち、20億ドルは緊急介入による人命救助に、7億6000万ドルは食料、肥料、燃料の高騰の影響を受けた脆弱な国における貧困、飢餓、栄養不良のさらなる増加を緩和するための持続的な短期食料支援に充てる予定としています。
日本政府も2億ドル(270億円)を拠出し、食料不足に直面し始めている中東、アフリカ諸国への食料供給や、生産能力の強化を支援するということです。具体的には、WFP(国連世界食糧計画)を通じた緊急食料支援などに6800万ドル、2国間の食料生産能力強化の支援などにおよそ4710万ドルが充てられるということです。また、ウクライナが穀物の輸出を再開できるよう、貯蔵施設の整備を後押しし穀物輸出促進支援を行うとしています。
G7では食料不足への踏み込んだ具体策は示されなかった
しかしG7における食料安全保障分野への巨額な拠出決定にも関わらず、残念ながらその取り組みは、各国ごとの支援額の積み増しに留まり、ウクライナ穀物の輸出再開については、G7としては新たな代替案を提示しませんでした。ウクライナやロシアに食料輸入を依存してきた中東やアフリカの一部では、食料危機がすでに進行しているだけに、海外メディアでは踏み込んだ具体策が期待されていましたが、その期待は裏切られた格好です。
ウクライナ政府は、輸出できない穀物の量が秋までに3000万~6000万トンに拡大する可能性があり、輸出の安全確保を訴えています。世界の穀物貿易量は約4.7億トン(2021/2022年・FAO)であることを考えると、秋には単純にその貿易量が約6~12%減少し、食料危機が世界でさらに本格化することも予想されます。
一方でEUやドイツが提案している陸路や鉄道、河川での輸送は、港湾を経由した輸出に比べるとインフラが確立されておらず、すぐに大量の穀物を運ぶことは困難という意見もあります。またたとえ海運ルート再開の合意がなされても、紛争地帯を航行するには高額の保険と護衛の費用を払って船団を手配する必要があり、その準備だけでも数週間が必要と言われています。穀物の代替輸送ルートの確保は単純な問題ではないのです。
世界的な食料危機を巡っては、「情報戦」とも呼ばれる国家間の言い争いも激しくなっています。ロシアは、欧米の制裁が食料危機の要因だと主張し続けています。対して欧州連合(EU)はプロパガンダだと反論していますが、危機の影響が大きいアフリカからはロシアの意見に同調する声も出ており、議論が錯綜している現状があります。