なぜトランプ大統領は安倍首相には耳を傾けたのか

そして、G7の取りまとめや民主主義という価値観を重んじるその働きが、国際社会で評価されたことは言うまでもない。これに関して安倍元首相がインタビューで明かしたエピソードの一つに、前ドイツ首相のアンゲラ・メルケルとのやり取りがある。

「日本はこれまで、自ら高々と主張を掲げるのではなく、多国間協議のまとめ役を担うと同時に、各国からそうした役割を期待されていました。

2016年9月16日、スロバキアのブラチスラバで欧州連合サミットに参加したアンゲラ・メルケル前独首相(写真=EU2016 SK/CC-Zero/Wikimedia Commons

私にも経験があります。例えば14年にベルギーのブリュッセルで行われたG7サミットは、この年にロシアがクリミアに侵攻したことへの対処を検討しなければならない場でした。議長はドイツのメルケル首相。各国首脳はロシアへの対処で意見が分かれたのですが、メルケル首相は会議の雰囲気が悪くなると、必ず私を指して『安倍さん、どうですか』と話を振るのです。

そこで私が『共通項はこれです』『大切なことは、ここでG7が足並みをそろえて統一したメッセージを出すこと』と発言することで、会議が前向きな方向に修正されていき、G7首脳の共同声明を出すに至りました」(10月15日号

事実として、トランプ前大統領とメルケル前首相は相性が悪かったとも言われる。2018年6月にカナダで開催されたG7で、トランプとメルケルの間に安倍元首相が腕組みをして立っている写真は、あまりに有名だ。「安倍さん、トランプをどうにかして」という彼女の声が聞こえてきそうな臨場感だが、実際、トランプ前大統領は欧州との同盟・外交関係の深化に熱心ではなかった。

一方で、トランプ前大統領は安倍元首相の話にはよく耳を傾けていたという。

「一般的なイメージからは意外かもしれませんが、トランプ大統領はこちらの理屈が通っていれば自論を引っ込めることもありますし、リーダーとして先輩である私の話をまず聞こう、という丁寧な態度を崩しませんでした」

いくら「リーダーとして先輩」でもメルケル首相の言うことは聞かなかったのがトランプ大統領であり、同時にトランプ大統領が耳を傾け、メルケル首相が助けを求めたのが安倍元首相だったということなのだろう。