「トランプと仲がいい」と皮肉られた時の鮮やかな回答

「シンゾー、ドナルド」関係は時に「行き過ぎでは」と批判されることもあった。例えば国際投資家のジョージ・ソロスから「あなたとトランプ大統領との間に信頼関係があることは、あなたの評判に繋がらない」と面と向かって言われたことがあるという。

その時、安倍元首相はこう切り返したという。

「トランプ大統領を選んだのは私ではありません。あなたを含めたアメリカ国民が大統領に選んだのです。そして米国は日本にとって唯一の同盟国です。その国の大統領と信頼関係を構築するのは、日本の首相にとっての義務です」(10月15日号

実は筆者もひそかに「いくら何でもトランプにへりくだりすぎでは」と思わないでもなかった。だが、EUの首脳から「トランプと仲がいい」ことを皮肉られた時の、安倍元首相の返答を聞き、考えを変えざるを得なかった。

「あなた方の国はNATOの一員だ。共同防衛義務があり、相互に自衛権を行使する。例えば北朝鮮には、『日本に武力行使を行えば、必ず日本が報復する』と思わせなければならない。私とトランプ大統領との関係において『私が頼めば、彼は必ず報復する』と北朝鮮が判断すれば、日本への攻撃を思いとどまる。その姿を、国際社会と国民に見せる義務が、私にはある」(7月16日号

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これを聞いて、外交を分かった気になっていたことを恥じるほかなかった。「ゴルフやセルフィーなどで親密な外交関係を内外に示したのも、そのため」と続けた安倍元首相は、他の誰でもない、日本国民のために、あのトランプ大統領との関係を保つ最大限の努力をしていたことを思い知ったのだ。

どんな小さな国でも、自ら挨拶にまわった

外交の舞台で安倍元首相が評価されたもう一つの理由は、「細やかな気遣い」ではなかったかと思う。取材時、安倍元首相はこんな「秘訣」を明かした。

「(外交的な)会議の合間の時間というのは非常に貴重な機会で、私はどんなに短い時間でも、なるべく多くの首脳と顔を合わせ、会話を交わすようにしていました。

日本はGDPで世界3位の大国ですから、その国のトップリーダーから声を掛けられれば、気持ちを向けてくれます。逆の立場で考えてもそうじゃないでしょうか。もし私が円卓に座っている時に、アメリカの大統領が自ら近づいてきて声をかけてくれれば、当然、悪い気はしません。何より、各国の人たちはそうした様子を見てもいます。『やはり日本のリーダーは、アメリカのトップから直に声を掛けられるんだな』と感じ、日本のプレゼンスそのものが強まるのです」(10月15日号

国内でも、「人たらし」で知られる安倍元首相だ。「中には自分から立ち上がって他国の首脳に声を掛けに行くことは一切しないリーダーもいた」(同)中で、自ら誰にでも話しかける安倍元首相の振る舞いは、特に小国のリーダーの心に響いたのだろう。だからこそ、各国から、日本のほうが驚くほどの悲しみと国際社会に及ぼした貢献に対する評価や感謝の意が発せられているのではないか。