投手より打者の方が有利だったワケ

「投手は投げ込んで精度を上げるしかないけど、打者はバッティングマシンで何百球でも打ち込むことができるから、絶対有利だよね」

昭和の時代、投手はよく口にしたものだ。

1970年代以降、長く続いた「打高投低」時代の背景に、速球だけでなく数種の変化球も投げることができるバッティングマシンの導入があったのは間違いない。打者は打法を会得するまで何球でも打ち込むことができたのだ。

これに対し、投手はブルペンで投げ込むことでコントロールをつけ、変化球を磨く。しかし投げ込むことは故障のリスクが高まることでもある。事実、投球過多で肘の靱帯じんたいを損傷、断裂したり、肩関節を痛めたりして戦線離脱する投手はたくさんいた。

精度を上げるためには球数を投げるべきだが、投げ過ぎると故障のリスクが高まる。投手にはそのジレンマがついて回ったのだ。

トラックマンの導入という革命

2005年ごろからMLBでは投球や打球を計測するトラッキングシステムが導入された。

もともと米軍のレーダーによる弾道捕捉技術を応用したもので、ゴルフで使われ始めたが、これが野球にも転用されたのだ。

代表的な製品はトラックマン社製の弾道測定器「トラックマン」。投球、打球の回転数、回転速度、球の軌道、投球角度などをオンタイムで表示する。この新兵器が、特に投手の練習法に大きな進化をもたらした。

筆者撮影
練習施設向けの小型トラックマン

実はMLBで進行中の、本塁打を狙って打つ「フライボール革命」も2015年ごろ、トラッキングシステムの打球解析によって生まれたが、三振が増え、打率が下がるなど、投手のイノベーションに比べれば負の部分も大きかった。

トラッキングシステムは球場据え付け型の場合1000万円ほど。簡易的なポータブルタイプでも1基当たり数十万円が必要で、ランニングコストもかかる。小さな投資ではない。