「いじめ防止対策推進法」の重大事態に該当

24日の電話や25日の校長室での報告で、A校長が繰り返し伝えていたのは「チャットよりも○○ドッキリが自殺の原因になっているのではないか」ということだった。

「私たちもいじめのすべてが端末上で起こったとは思っていません。ただ、チャット上で誹謗ひぼう中傷を受けていたことがわかっているのに、その履歴が消えていたり、自殺を公表したいと伝えても拒否されることに隠蔽いんぺいを疑うようになりました。私の調査でははっきり出ているC子、D子からのいじめについても、学校側は把握できていませんでした。『第三者委員会を立ち上げてください』と伝えました」(弘美さん)

「第三者委員会」とは、客観的な第三者の視点で調査する調査機関のことだ。いじめの場合には学校からの要請で市の教育委員会が立ち上げる。委員の人選においては、調査に関する専門性に加え、公平性・中立性が求められる。

実は、A校長の行動には重大な法律違反という疑義がある。

2013年に制定された「いじめ防止対策推進法」では、第28条第1項に「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」事態(自殺等重大事態と呼ばれる)を「重大事態」と定義。重大事態が起こった際には「速やか」に教育委員会などに報告し、第三者委員会を立ち上げて調査することが求められている。

山根夫妻の代理人で、2013年1月から2016年7月まで国会議員の政策秘書として「いじめ防止対策推進法」の制定にも携わった金子春菜弁護士は次のように語る。

「A校長は、学校長としてこの法律の存在を知っていたにもかかわらず、重大事態としてすぐに報告していませんでした。今回の自殺事件が、重大事態に当てはまるのは誰の目にも明らかです。たとえ、遺族に『子供には自殺を伝えないで調査してほしい』と言われたとしても、町田市教育委員会に報告のうえ、第三者委員会を立ち上げることはできます。それをしていなかったということは法律に違反していると言わざるを得ません」

「遺族の意向で詮索しないでください」

年明けから山根夫妻は「一日も早く全校生徒と保護者に詩織が亡くなったことを伝えてください」と何度も依頼した。A校長は「後追いが怖いので、待ってください」と断りつづけていたが、ようやく1月13日の朝に「14日に6年生の親向けに臨時保護者会を開いて、子供たちに詩織さんが亡くなったことを伝えます」と連絡があった。ただし、「学校が混乱するので、山根さんご夫婦は来ないでください」と言われた。

詩織さんと同級生の娘を持つ加藤和江さん(仮名)は、この日の臨時保護者会のことを次のように話す。

開催日の前日に送られた、臨時保護者会を知らせるメール。開催時間は15分程度と書かれている(保護者提供)

「1月13日の午前中に、メールで臨時保護者会開催のお知らせが届きました。緊急事態宣言が延長された最中で、何があったのかと思いました。14日夕方、体育館に行くと『子どものストレス反応と対応について』という1枚のプリントを渡され、先生たちが皆、黒い服を着ているので胸騒ぎがしました。そして、A校長が短く、一方的に詩織さんが亡くなったことを伝えて、終わってしまったんです」

A校長が伝えたのは、次のような言葉だった。

「悲しいお知らせがあります。6年生の山根詩織さんが亡くなられました。明日、児童には私から話をしますし、担任の先生からも話してもらいます。ご家族の意向で、これまで発表は控えてくださいと言われていたので、今日、発表することになりました。なぜ亡くなったのかは遺族の意向で伝えられません。なお、すでにご葬儀は済まされていますので、いきなり弔問に行くようなことはなさらずに、伺う際には必ず事前にご家族へ連絡のうえ訪問するようにしてください」

明らかな嘘がいくつも混ざっていた。