1980~90年代の成功体験から抜け出せていない
――日本が経済先進国だったのは過去の話であり、このままではむしろ後進国になりかねないと。
その通りです。日本はもはや経済規模では中国に、一人当たりの購買力平価GDPでは韓国に抜かれ、企業の給与額の面でも両国にはかないません。どの側面から言ってもすでに「The 先進国」の座にはおらず、アジア諸国のセンター位置から引きずり下ろされつつあります。まずはこうした現実を直視していただくことが出発点だと思っています。
いままで通り求められるものを安く大量に作っているだけでは、2030年、2050年に経済競争の土俵に立っていることはできません。これからは、一人ひとりのアイデアや行動力がより試される時代になっていきます。そこで求められる人材も従来とは大きく違ってくるでしょう。ゲームに例えるなら、もはや高度経済成長期とはルールもプレイヤーもまったく変わっている。私はそう実感しています。
海外を見渡すと、多くの企業はこの「新しいゲーム」にすでに対応しています。私が思うに、日本は1980〜1990年代の成功体験が強烈すぎて、それゆえそのやり方から抜け出せないのではないでしょうか。
本来、日本人は熱心に働くのが特徴で、イノベータースピリッツや上昇志向も持ち合わせていました。もともとの国民性や能力から言えば、海外企業に太刀打ちできないはずがありません。時間はかかっても、新しいゲームに対応できるマインドを養っていくことは可能だと考えています。
人材投資は「コスト」ではなく「アセット」
――企業のトップは何をするべきでしょうか。
経営戦略と人材戦略がしっかり紐づいているかどうか、そこに企業の命運がかかっていると認識していただきたいと思います。多様な人材の採用や育成、賃金アップなど、人材にかかる資金は、カットする対象の「コスト」ではなく、投資する対象である「アセット」として見るようマインドを変えていっていただきたいですね。これは、私たちがいちばん訴えたいメッセージでもあります。
経営トップが、いまの組織の中で、自分で自分を変えていく──。この難しさは重々承知しています。しかし、未来人材ビジョンではあえて「そこにチャレンジしましょう」と提言しました。私たちはそれほどまでに、日本の未来に危機感を抱いています。
人材は、投資すればしただけのリターンを生んでくれる存在です。次の時代も自社を存続させていくにはすぐにでもイノベーションが必要で、それには多様な人々の能力やアイデアを引き出すための投資が欠かせません。そうしなければ生き残れない時代が、すでにやってきているのです。