「早く飲んで早く治す!」は正しいのか
風邪薬といえば、「早く飲んで早く治す!」「早めの○○♪」などとCMで謳っている市販の風邪薬があります。病院を受診すれば、「風邪ですね」という診断とともに総合感冒薬や複数の対症療法薬(咳止め、鼻炎止め、炎症止めなど)のオリジナルの風邪薬セット(後述)を処方する医師がいます。
このように身近に、気軽に手に入る風邪薬ですが、それらの風邪薬を「早く」飲めば「早く」治るのでしょうか?
2020年12月に非医療従事者を対象にインターネットで実施された武田コンシューマーヘルスケア・国立国際医療研究センター病院の調査では、「風邪薬には、風邪のウイルスをやっつける効果がある」という回答が65%という結果でした。一般の患者さんの半数以上がこのように理解している可能性が示唆されました。
しかし結論からいうと、風邪に特効薬はありません。早く飲めば早く治る効果などはない、というのが医療業界での昭和の頃からの常識です。医師は誰もが知っています。
そして医師の多くは、1症状ごとに対応した対症療法薬、症状をやわらげる目的の薬が、風邪薬であるとしています。「ウイルスをやっつける」という風邪薬に期待する一般の理解とは少し違う効果になります。
「対症療法薬」。それらの薬の中身は、具体的にはどんな成分なのでしょうか?
はな風邪に鼻炎止めの薬は効くのか
医療機関で「風邪ですね」と診断された場合、処方されるのは、どこも似たような「風邪薬セット」です。
処方する医師もパターン化して考えていて、電子カルテを使っている医師は、オリジナルの風邪薬セットをパソコンフォルダに作成していたり、紙カルテを使っている医師は、オリジナルの風邪薬セットの薬名を明記したハンコを用意しています。症状の程度や採血の炎症反応の結果によって、小児と成人でそれぞれ2パターンほど作成していることが多いようです(図表1)。
それでは、これら「対症療法薬」とされる風邪薬を飲めば、症状が楽になるのでしょうか? それぞれの薬を検証していきます。
鼻炎止めから見ていきましょう。患者さん側からすると、風邪の鼻炎症状(くしゃみ、鼻汁、鼻づまり)は一刻も早く治したいものです。
そもそも風邪をひくと、なぜ、鼻炎症状が出るのでしょうか? ウイルスが鼻の奥すなわち上咽頭の粘膜細胞に侵入して感染が起こると、我々が生まれながらに持っている「自然免疫」が反応し、自己防衛を行います。
ウイルスを外部に出そうとして「くしゃみ」が起き、ウイルスと戦うための体内の免疫細胞が多量に含まれている粘液「鼻汁」を出し、炎症が起きることにより鼻腔(鼻の内側の空気の通り道)の粘膜が腫れて通り道をふさぎ、「鼻閉」いわゆる鼻づまりが起きます。これらの鼻症状はすべて、風邪ウイルス感染に対する自己防衛反応なのです。