BEVこそ無駄を排除した車体設計が可能だ

ベースモデルから変更された箇所もあり、BEV化による低重心化に併せて、車体のロールセンターは若干上げてロール剛性(車体の横揺れ耐性)を確保。リヤサスペンションにはガソリン車の4WDモデルが用いるトルクアーム式3リンクに専用チューニングを施して組み込んだ。

テストコースでは大人3名で速度リミッターが働く140km/hで走らせたが、日産のスポーツカー「GT-R」の走行性能担当者も開発に携わっているだけに確かなものだった。

BEVは、とかくAERや搭載バッテリー容量に対してユーザーから鋭い眼差しを向けられ、この値が短い/小さいと評価が高まりにくい。

しかし、BEVこそユーザーの走行シーンや目的に応じた車体設計により、無駄が排除され、最大限の温室効果ガス削減効果やLCA換算でのCO2排出量の低減が実現できる。サクラ/ekクロスEVなど軽自動車BEVはここに商機があり、またユーザーも慧眼だから販売は好調だという。

大容量バッテリーを搭載するBEVの場合、車両重量はその分、重くなる。bZ4Xやソルテラのリチウムイオンバッテリー(71.4kWh)は補機類含めて450kg前後だ。アリア(B6のリチウムイオンバッテリーは66kWh)にしても同じレベル。一転、サクラでは20kWhで150kgとベースとなったデイズから160kgの重量増加にとどまる。

サブスク方式、リース方式…新たな買い方が一般化

BEVでは新たな買い方も一般化した。bZ4Xを個人で契約する場合はサブスク方式の「KINTO」、法人ではリース方式。ソルテラでは一般的な売り切り方式。

サブスクリプション(サブスク)とはフルサービスリースのことで、自動車保険、税金、メンテナンス代などクルマの利用にかかる費用を月額に含んだ定額サービス方式のこと。500eもサブスク方式。IONIQ 5はオンラインでの購入方式。テスラと同じような仕組みが用意されている。

筆者撮影
フィアットの「500eOPEN/チンクエチェントイーオープン」は42.0kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTC値で335km走る。試乗車の車両重量は1360kg

2022年後半戦もBEVのバリエーションが増えていく。高額な車両価格や実質的なAER、そして立体駐車場を駐車環境にするユーザーにとっては、車体サイズや車両重量、充電環境など、愛車にするにはハードルは未だに高い。

しかし、まずはこうしてBEVの選択肢が増えたことに目を向け素直に喜びたい。そしてBEVを含む電動化社会について、課題の洗い出しと、克服に向けた具体的なアイデア出しを携え政府に働きかける。この循環が理想だ。

同時に、内燃機関モデルであってもスズキ「アルト」を筆頭にLCA換算でCO2排出量の少ないエコロジカルな乗り物も存在する。目標はあくまでも温室効果ガス削減。BEVだけでなく内燃機関モデルであっても、果たせる役割はある。具体的な解決策により相互理解が進むジェンダー平等と同様に、目的に応じた電動化と、究極を目指した内燃機関の両立など、多様性ある車社会を望みたい。

関連記事
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由【2021上半期BEST5】
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ【2021下半期BEST5】
「世界一の技術が日本にある」太陽光や洋上風力より期待が大きい"あるエネルギー源"【2021下半期BEST5】
世界中を悩ませる「LNGの脱ロシア化」で、欧州には不可能かつ日本にしかできない最善のエネルギー源
「助成金を渡すだけではだれも田舎に住まない」北海道東川町が27年間人口を増やし続けるワケ