「決定的な証拠は探偵に依頼することが多い」
依頼主は40代前半の女性。旦那の浮気を疑って探偵に依頼したらしい。
ここ数カ月は定期的に学生時代の友人と飲みに行くという理由で家を空けることが多くなってきたとのこと。話を聞く限り、確かに浮気をしてそうだ。にしてもそれだけじゃ、川崎駅に来るとはわからないのに。
「一度ここまで依頼主が尾行してみたことがあったらしいよ。そこで女の人と待ち合わせをしてるところを見たけど、それ以上は調べなかったんだって」
「そのまま尾行しちゃえばお金もかからないじゃないですか」
「ははは。たしかにね。でも、決定的な証拠は探偵に依頼することが多いんだよ」
まあ、旦那が女とホテルに入るところは見たくないよな。
「それに自分でそこまで調べておいてくれれば、値段もそんなにかからないからね」
ふーん。そういえば探偵を雇う金額ってどれくらいなんだろう。
「今回の依頼だと20万かな。もしかしたらもっと安くなるかも」
「マジすか。結構しますね」
「いやいや、ウチはかなり安い方だよ。大手だったら最低でも50万はかかるよ」
たっか! どっちも高額だよ。つーか、なんでそんなに金額が変わるんだ?
「調査費用は人数によって決まるからさー」
調査費は必要な人数と日数をもとに計算するようで、簡単な依頼であれば安くなるし、尾行に人数がかかる場合なんかは高額になってしまう。
バレないようにやりとりはラインで
「なんで大手はそんなに高いんですかね?」
「探偵業界って客の足元を見るんだよ。本当は3人で充分に調査できるのに、6人の調査員が必要ですってウソついたりね」
なるほど、俺みたいなバイトを使えば安くあげることができるもんな。
そんな話をしていたら、他の調査員がやってきた。
「キタキタキタ。撮れ、撮れ、撮れ!」
やってきたのは若い金髪の男性だ。いかにもチャラい雰囲気で、ホストだと言われても不思議じゃない。
「はじめまして、今日から入りました野村です。よろしくお願いします」
「うっすー、タナカです。よろしくねー」
なんかアホっぽい風貌だけど、幼い顔を見るかぎり、もしかして俺よりも年下なんじゃないのか?
「タナカさんはおいくつなんですか?」
「23だよ。野村くんは?」
「24ですね」
「やっぱ年上かー。ま、色々教えてあげるからさ」
けっ、年下の先輩かよ。なんか絡みづらいな。
「じゃあ、野村くんとりあえずラインを交換させてくれる?」
ライン? 何に使うんだ?
「一度に全員で移動したら不審がられるでしょ? だから常にライン通話で会話しながら場所はバラバラに尾行するんだよ」
なるほど、理にかなっている。交換を済ませて今日の調査員たちが入っているグループに参加した。