自由資本主義圏への仲間入りを進めつつある

それと異なり、インドは第1次産業から、第2次産業を飛び越えるようにして第3次産業が成長した。第2次産業の厚みを欠いたいびつな経済構造だ。その要因の一つとして、数学など自然科学分野に秀でた人材が豊富であるため、モノを作るよりも、ソフトウエア開発などを人々が志向しやすいことが影響しているだろう。

製造業の根源的な役割は無から有を生み出すことにある。エネルギーや鉱山などの資源はそのままでは使えない。精製して石油化学製品や粗鋼が生産されることによって日用品や衣服、靴、家具、耐久財などが生産され、人々の生活水準が高まるとともに雇用・所得環境が向上する。工業化を進めることは消費環境の安定感を高め、経済成長をさらに加速させるだろう。

そう考えると、中国からインドへの資本流入の加速はモディ政権にとって重大なチャンスだ。そうした考えがインド太平洋経済枠組み(IPEF)参加につながった。経済面でインドは自由資本主義圏への仲間入りを進めつつある。

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中国より安い労働コスト、消費市場としての伸びしろもある

5月24日に東京で開催された日米豪印のクアッド会合に、インドのモディ首相が対面で参加した。インド太平洋地域の安定を目指して中国に対抗するためにインドと主要先進国の足並みは徐々にそろいつつある。政治面でもインフラ投資支援の強化など主要国との連携が加速する。別の見方をすれば、世界経済のダイナミズムの中心地が、中国からインドに急激にシフトし始めた。

2020年8月に融資規制が実施されて不動産バブルが崩壊した結果、中国経済の減速傾向は鮮明だ。高度経済成長期から安定成長期へ、中国経済は曲がり角を曲がった。一人っ子政策による少子化と高齢化の深刻化によって中国の生産コストは上昇する。共産党政権によるIT先端企業などへの締め付け強化は企業の事業運営の効率性を削ぐ。

その一方で、インドの労働コストは中国を下回る。2020年代後半にインドは中国を抜いて世界最大の人口大国になり、2050年まで人口は増加傾向で推移すると予想されている。生産拠点としてだけでなく、中長期的な消費市場としての成長期待も高い。低労働コスト、インフラ投資、消費拡大などインド経済の成長を取り込むために直接投資を増やす海外企業は増えるだろう。