「敵の敵は味方」の論理で「クアッド」を形成

世界の政治、経済、安全保障におけるインドの重要性が急速に高まっている。第2次世界大戦後、初代首相のジャワハルラール・ネルーが非同盟主義を掲げたことに基づき、インドは中立主義をとってきた。しかし、ここにきてインドが世界の中で中立的な立場を貫くことは徐々に難しくなっている。

首脳会談で握手する岸田文雄首相(右)とインドのモディ首相=2022年5月24日午後、東京・元赤坂の迎賓館[代表撮影]
写真=時事通信フォト
首脳会談で握手する岸田文雄首相(右)とインドのモディ首相=2022年5月24日午後、東京・元赤坂の迎賓館[代表撮影]

1950年代以降、インドは中国と国境をめぐって対立してきた。近年は中国がインド太平洋地域への進出を強化し、影響力の拡大に取り組んでいる。インドは、敵の敵は味方、のロジックに基づいて日米豪の4カ国と戦略的な枠組みである“クアッド”を形成し、自由で開かれたインド太平洋地域の実現を目指している。

足許では、インドに事業拠点を移す、あるいは事業運営体制を強化する企業が増えている。経済面からみるとインドは自由資本主義陣営に仲間入りしつつある。それはインドのみならず、世界経済の安定と成長に重要だ。

その一方で、インドはエネルギー資源の調達などにおいてロシアとの関係も重視してきた。中国への対抗と国内の需要を満たすために、インドにとって対ロ関係は重要な役割を担っている。ウクライナ危機をきっかけに世界経済の成長率低下と物価高止まりの同時進行が懸念される中で、インドが自由資本主義陣営との関係強化に集中できるか否かは、今後の世界情勢に決定的インパクトを与える。

ゼロコロナ政策に振り回されてはたまらない

ウクライナ危機が発生して以降、世界の主要な企業と投資家が急速にインドに資金をふりむけ始めた。資金の主な流出元は中国だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから5月末までのインドと中国の代表的な株式インデックスの推移を確認すると、その状況がよく分かる。中国では上海総合指数が約7%下落した。対照的に、インドのSENSEX指数は1.9%上昇した。

世界の主要投資家や企業経営者は中国経済の先行きをこれまで以上に不安視し始めている。5月31日に中国日本商会が公表したアンケート調査(新型コロナ対策がビジネスに与える影響調査)の結果ではゼロコロナ政策によって“投資が遅れた”と回答した企業が8%、“投資が減少した”との回答は7%だった。

さらに、影響が“まだわからない”が54%に達した。海外企業にとって共産党政権のゼロコロナ政策に振り回されることは、中国における最大のリスクと化している。感染が再拡大すれば共産党政権はゼロコロナ政策を再度徹底するだろう。