「2%の物価上昇」は予想外の形で実現してしまった

世界的なインフレによる国際市況の高騰に円安が加わったことで、日本にも物価上昇が迫っている。企業の間で取引されるモノの価格を示す企業物価指数は2022年4月まで14カ月連続で上昇、過去最高となった。輸入物価の上昇率について、決済をすべて円換算した場合、4月の上昇率は前年同月比44.6%という大幅な上昇になり、円安が物価上昇に拍車をかけ始めていることは明らかだ。

それでも消費者物価指数は低い上昇に止まっていたが、4月にはついに前年同月比2.1%の上昇となった。黒田日銀が目標とし続けてきた「2%の物価上昇」が予想しなかった形で実現する結果となった。輸入原料に依存している電力やガス、ガソリンなどの価格上昇が続き、小麦や食用油などの価格も上昇、それらを原材料とする食料品、日用品の価格が一斉に上昇を始めている。おそらく今後は、物価上昇率を2%に抑えられるかどうかが焦点になってくるだろう。

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当初、日銀が想定した2%の物価上昇は、同時に賃金も上昇していくことを想定していた。経済の好循環が起きることを前提とした物価上昇だったわけだ。足元で進む猛烈な円安で、企業収益が膨らんだ分、賃金が増えることが重要なのだが、果たしてどうか。

円安で膨らんだのは「見た目の利益」にすぎない

ひとつの大きな問題は、円安で膨らんだ利益のかなりの割合が「見た目の利益」だということだ。今の日本企業の決算は「連結決算」が主体だ。海外の子会社がドルで稼いだ利益も、連結して決算する際は円に換算する。つまり、ドル建てでは利益が横ばいでも、円に換算した場合、大幅な増益になるという「マジック」が起きる。換算上利益が膨らんでいるだけで、実態は違う、という部分があるのだ。

そのドル建ての収益を円に転換して日本に持ち帰るなら、円安は確かにプラスになる。もちろん、以前のように日本からの輸出が主体な場合は、円安はキャッシュの受取額が増えるので、リアルにプラスになる。焦点は、いくら「見た目」の利益が増えても、リアルに手元に入ってくるキャッシュが増えなければ、本格的な給与引き上げにはつながらないことだ。

日本企業の多くは、過去の円高局面で製造拠点を海外に移している。そうした企業では円安がかつてのようにフルにプラスには働かないわけだ。つまり、連結決算で見た業績好調が、どれだけ「リアル」なのか。それを原資にどれぐらい賃上げができるのかが、日本経済の今後の復活に重要な意味を持つ。