肥満によって脂肪細胞はどんどん増えていく
脂肪細胞には、大きな脂肪滴がひとつある白色脂肪細胞と複数の脂肪滴がある褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞があり、役割が異なります。
皮下組織にあって、脂肪をためる役割をしているのは白色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は首や肩の周りなどに多くあり、脂肪を代謝させエネルギーを産生します。ベージュ脂肪細胞は動物が長期間、寒冷にさらされると出現するという特徴があり、やはりエネルギー産生機能をもっています。
白色脂肪細胞(以下、脂肪細胞)は、脂肪をためると直径70〜90µmほどの大きさになります(1µmは10-3mm)。赤血球の直径が8µmほどですから、脂肪細胞はかなり大きい細胞です。人類は、飢餓に備えて、このような細胞を獲得したものの、食べものが豊富になり、便利な時代となった今、栄養過剰摂取と運動不足でエネルギーは余るばかり。それでも、生体はエネルギーをためることはやめません。
その結果、脂肪細胞は脂肪をどんどん取り込むことになりました。風船がふくらむように大きくなり、最大では直径100µmをこえるほどの大きさになります。太るとき、脂肪細胞は、「数は変わらずにどんどん大きくなる」という説と「数が増える」という説がありました。最近は、肥満によって脂肪細胞の数が増えることが明らかになってきました。
太る原因は糖質なのか、脂質なのか
脂肪細胞の数は成人で約300億個、肥満者で400億から600億個といわれます。そしてこれらの脂肪細胞は体内最大の内分泌器官でもあります。脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
ここでまた本稿の冒頭の疑問点に戻ります。生物は余ったエネルギーを脂肪として蓄えるしくみがあり、それは脂質を含む食べものを食べたときばかりではありません。それなのに、脂質=太るというイメージが強いのはなぜでしょう。
脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります。
砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
たとえば、「お正月におもちを食べすぎて太った」、なんて会話がよくかわされます。おもちはデンプンからできていて、脂質はわずかしか含みませんが、食べすぎれば体脂肪が増えます。