設計図流出自体は立件できなかった

――設計図流出自体は立件できなかったのか。

できなかった。設計図そのものに機密度の高い事項が記載されていなかったからだ。今回の件に限らず、機密度が高い情報は書類に書かず、空白にしておくことが多い。情報保全のためだ。捜査上は、「機微な性能データまでは流出しなかった」という判断になってしまった。

このころは朝鮮総聯と、北朝鮮の金正日一族との関係が現在よりも緊密だった。北朝鮮の貨客船・万景峰マンギョンボン号がまだ定期的に新潟西港(新潟市)に入っていた時期だったから。私は警察庁外事課長の時、万景峰号が入ってくるのを新潟までよく見に行っていた。

その後、北朝鮮への制裁に基づいて、万景峰号は入港できなくなった。これで北朝鮮と朝鮮総聯との人、物資の行き来の大きなパイプが切断されたことになる。それに伴い、朝鮮総聯の北朝鮮本国における発言力も低下しているようだ。

私は内閣情報官だった16年から17年にかけて、北朝鮮が頻繁に弾道ミサイルを発射するという危機を経験した。深夜や未明に官邸に駆けつけるたびに、「流出した中SAMの情報が、日本に飛んでいるミサイルに役立ったのかも知れない」などと思ったものだ。

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核開発に使用できる測定機を輸出したミツトヨ事件

――2006年には、大手精密測定機器メーカー「ミツトヨ」(川崎市高津区)が、核兵器製造にも使用できる「三次元測定機」を海外に輸出していた事件もあった。

三次元測定機とは、文字通り、立体の物を三次元で測るものだ。測る物を測定機の台に置くと、高さ、幅などだけでなく、曲面や輪郭といった形状を測れる。

核開発のためにウランを濃縮するには遠心分離器という機械が必要になるが、これが高速回転できるかどうかを調べるため、円筒のゆがみなどを測定するのに三次元測定機は使われる。遠心分離器の保守管理には不可欠だ。計測誤差が小さいことが求められており、一定水準を上回る高性能の機種は輸出が規制されている。

警視庁は、2006年2月、外為法違反(無許可輸出)の疑いで、ミツトヨの本社や宇都宮市の工場などを捜索した。01年に三次元測定機と、測定機を作動させるソフトウエアを1セットずつ、経産大臣の許可を受けないで中国とタイにある日本企業の現地法人に輸出した疑いだった。現地にそれぞれ、測定機の操作方法を指導する技術者を派遣してもいた。外為法は、軍事転用可能な精密機器の無許可輸出だけでなく、技術指導も禁じている。