効率的に審査をする制度が「抜け道」として悪用された

逮捕容疑となった2001年10月と11月の不正輸出でも、輸出直前の書類には、計測誤差が実際より大きいように書き換えられていた。製造直後の完成検査では、輸出規制に触れる数値になっていたにもかかわらず、だ。

北村滋、大藪剛史(聞き手・構成)『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)
北村滋、大藪剛史(聞き手・構成)『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)

――ミツトヨ社内の輸出管理体制はどうだったのか。

逮捕された社長は、社内のチェック機関である「輸出管理審査委員会」の最高責任者を務めていたが、他の容疑者らによる不正輸出を黙認していたようだ。ミツトヨの関係者は「社内に輸出管理規定はあるが、管理体制は甘い。ほとんどチェックできていない」と話していた。

しかも、ミツトヨは1996年2月、通産大臣から、輸出にあたって輸出審査を個別に受けなくても済む「包括許可」を受けていた。包括許可は、

・輸出する製品の性能が比較的低い
・輸出先が、大量破壊兵器を開発する「懸念国」ではない

ことなどを条件に、個別の輸出許可審査を省く制度だ。許可を更新するまでの3年間は事実上、無審査となる。

外為法違反(無許可輸出)の疑いで警視庁の捜索を受けたことで、2006年6月には許可を取り消されたが、効率的に審査を進める国の制度が、抜け道として悪用されていたわけだ。

IAEAがリビアでの査察で、三次元測定機を見つけなかったら、無許可輸出が明らかにならなかった可能性もある。

※本稿の説明は、当該事件当時の各種報道、警察白書の当該部分、警察庁警備局編集の『焦点』及び『治安の回顧と展望』の当該部分、外事事件研究会『戦後の外事事件 スパイ・拉致・不正輸出』東京法令出版(2007年)の当該部分、拙著『情報と国家』中央公論新社(2021年)の当該部分、当該事件の受任弁護側から開示されたと思料されるネット上の各種資料、その他研究者による事件関連論文等の公表又は開示された資料に基づいている。

(聞き手・構成=大藪剛史)
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