※本稿は、北村滋、大藪剛史(聞き手・構成)『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
最先端の民間技術を軍事転用する「中国の軍民融合」
――中国はどのような戦略を持っているのか。
「軍民融合」を進めている。最先端の民間技術を積極的に軍事に転用しようという国家戦略だ。
中国に軍事と民間の境目はない。そもそも、中国では企業が政府や軍の支配下にあることが多く、企業の開発した技術が軍に利用されやすい状況だ。外国企業の研究開発施設を誘致し、合弁企業化することで技術移転を図っている。海外企業に対する技術協力や買収を通じた強制的な技術移転も進めているし、情報機関が産業スパイをすることもいとわない。これは既に説明してきた通りだ。海外留学からの帰国組による技術導入も盛んだ。
中国は、2021年3月採択の5カ年計画で、軍民融合を進め、AIや量子技術などの分野の発展を急ぐ方針を示した。習主席は、21年10月、軍の装備品に関する会議で、5カ年計画を着実に実施し、「中国人民解放軍100周年」である2027年の奮闘目標実現のため、積極的に貢献することも求めた。
民間技術を軍事的な優位性につなげようと血眼になっている中国にたとえ民生用技術であれ先端技術に関する情報を盗み取られると、日本にとって死活問題となりかねない。
「ウサデン」の領域が交わる部分で戦闘が決する
――こういった技術は、戦争をどう左右するのか。
宇宙、サイバー、電磁波という新たな戦域で勝てるかどうかは、高い科学技術を持っているかどうかに左右される。だからこそ、科学技術を守ることが重要だ。
陸、海、空という領域に加え、現代戦では宇宙、サイバー、電磁波も戦いの領域だ。これを新領域という。宇宙の「ウ」、サイバーの「サ」、電磁波の「デン」をとって「ウサデン」と呼ばれる。
――宇宙、サイバー、電磁波、それぞれの領域で戦闘が完結するわけではないのか。
むしろ、領域横断だ。サイバー攻撃で宇宙の人工衛星が機能不全に陥る。すると陸海空の部隊との連絡も途絶える。
これからの時代は、兵士の数や戦車の台数、戦闘機の数といった戦力よりも、陸海空、宇宙、サイバー、電磁波などの領域が交わる部分で戦闘が決する。
米国は、全ての領域で一斉に作戦を展開し、敵に勝つための能力の獲得を目指している。中国軍が2015年に発足させた戦略支援部隊も、宇宙、サイバー、電磁波と情報戦を一つの部隊に一本化したものとみられている。