「支配地域の市民の殺害について、プーチンが具体的な指示を出しているかどうかはわかりません。けれど、ウクライナの都市ブチャの虐殺に関わった部隊の責任者を処罰するどころか、部隊に名誉称号を与えている。つまり、これは一部の部隊の暴走ではなく、占領地支配の基本方針としてプーチンやロシア軍の了解を得て行っていることを意味します」
スラブ世界の再統合
国民の権利を十分に守らないどころか、監視してきた国、ロシア。しかし、いまそこで高まっているのは、愛国主義的な団結心だ。
「プーチンの支持率は8割もある。国の主人公として扱われてこなかった国民が皮肉にも支配者を支持している。一見すると矛盾しているようですが、国民の政治的権利を抑える一方で、大国意識を広く涵養する努力は、第二次プーチン政権(2012~)のもとで体系的に繰り広げられてきました。団結して戦おうというロシア人の意識は、いま非常に高いと思います」
池田准教授はそう言うと、よく似た例として第二次世界大戦中の日本を挙げた。
「あのころの日本は愛国主義的な団結心がとても強かった。兵士の命は軽く扱われていましたが、それに異を唱える人はほとんどいなかった。国際的に包囲され、さまざまな物資が不足して、あれだけ苦しい思いをしても政府に対して反乱を起こそうということもなかった」
ウクライナに侵攻した直後、ロシア国営RIAノーボスチ通信は「ロシアの攻勢と新世界の到来」という論説を配信した(現在は削除)。
「その高揚感たるや激しいもので、われわれはスラブ世界を再統合して、これまでロシアを虐げてスラブ世界を分裂させてきたアメリカ、イギリスに対していよいよ挑戦するときがやってきたと。インドや中国、第3世界とともに新秩序をつくるんだ、というようなことが書かれていました」