飢餓、伝染病がないのに……ロシアの平均寿命の短さ
しかし、ゴルバチョフが企業の独立採算制と自主管理制を導入する経済改革などペレストロイカ政策を本格実施しはじめた1987年から、いったん低下したアルコール消費量の再拡大と平行して、平均寿命は再度低下しはじめた。そして、1991年のソ連崩壊後、1994年にかけては、一層急激な平均寿命の低下をみており、この時期の社会混乱の大きさをうかがわせている。
その後、いったんは回復に向かうかに見えた平均寿命であるが、ロシアで金融危機がおこった1998年以降は、再度、一進一退の状況となった。2006年以降、プーチン大統領が主導した経済の復興に合わせ、平均寿命もやっと回復の傾向を見せることとなった。
ロシアは、社会システムの崩壊がもたらす極めて深刻な状況に襲われたが、この点について、以下に、ロシアの平均寿命の短さについての要因分析を要領よくまとめている国連開発計画(UNDP)の報告書を引用することとする。
暴力犯罪や心理ストレスだけでなく、予防可能な感染症(とくに結核、急性腸炎、ジフテリア)の蔓延は、保健医療制度に欠陥があることを示している。公共医療支出は、1997年から98年にかけての1年ではGDPの3.5%を占めていたが、1990年から2001年の間には平均2.9%にまで減少した。裕福な世帯の多くは新たな民間の医療サービスに頼るようになっており、多くの貧困世帯にとっては、あらゆるところで賄賂その他の正規外の支払いを求められるために、「無料」の公的医療サービスは手の届かないものになってしまった。
ロシアの死亡率の動向は、21世紀初頭における人間開発の最も深刻な課題の1つを示している」>(国連開発計画「人間開発報告書2005」)。