「私たちはプーチンの辞職を求めます」

極めつけはレオニード・イワショフ退役大将である。彼は現役時代、総参謀本部で旧ソ連諸国との連絡などを務め、ものすごく切れる戦略家だった。しかし、その極右的な言動が災いしてか2001年には国防省から体よく追い出され、共産党(ソ連崩壊後は反プーチンの野党)とともに、プーチンの辞任を求める将校の団体を立ち上げている。団体はその後、「全ロシア将校集会」と名乗り、イワショフはその議長を務める。2月初め、まだ戦争は始まらず、ロシア軍が国境に集結していた時点で、次の趣旨の公開書簡がイワショフ名で「集会」のサイトに掲載された。

「この戦争は、プーチンとそれを囲む公安・石油関係者の狭いサークルが、自分たちの地位と権益を守るためだけにしかけるものです。ロシアは世界での居場所を失い、悪くすると国家が消滅してしまうことになるでしょう。私たちはプーチンの辞職を求めます」

「プロパガンダ信じないで」テレビ番組で掲げた女性

これを別のサイトで目にした僕は最初驚いた。イワショフはすぐ、「これは自分の書いたものではない。言っていることも文体も違う」と言って関与をいちおう否定した。イワショフがその後、当局に摘発されたという話は聞かない。この書簡を「集会」のサイトに見つけることはできなかったが、いろいろなサイトではまだ平然と引用されていた。

3月14日には当局きってのプロパガンダ・マシン、第一チャンネル・テレビ、夜のプライム・タイムのニュースで、騒ぎがあった。ウクライナでの「特殊軍事作戦」を報道するアナウンサーの背後に、プラカードを掲げる若い女性がいきなり立ったのだ。

写真=AFP/時事通信フォト
ロシア国営テレビのスタッフが生放送中、「戦争反対」のメッセージを掲げた=2022年03月15日

「戦争やめて! プロパガンダ信じないで。みんな、ウソ言われてんのよ」

女性は番組スタッフの一人でウクライナ生まれ、父親がウクライナ人だという。彼女はすぐ当局に拘束されたが、スタジオの仲間の支持がなければこんなことはできなかっただろう。第一チャンネルの報道局では、1991年8月クーデターの時、僕の友人だった故ラトネル次長もクーデター一味を暗にあざ笑うニュースを流して、流れを変えたことがある。