余計なことをすると、終末期の苦しみを助長する

【中村】日本の終末期医療はこんな調子だと伝わったとして、先生なら海外の事情にも詳しいんと違う?

【奥田】オーストラリアやオランダ、スウェーデンなどでは、認知症や寝たきりのご高齢者に人工栄養(経鼻や胃瘻などの経管栄養、中心静脈栄養)は全く行われないそうです。

中村恒子・奥田弘美『うまいこと老いる生き方』(すばる舎)

またオーストリア、スペイン、アメリカなどでも、かなり少ないそうです。これらの先進国では、人工栄養で延命され寝たきりになっている高齢者は日本に比べて圧倒的に少数だといいます。詳しく知りたい方は、ぜひ宮本顕二先生・宮本礼子先生の『欧米に寝たきり老人はいない』(中央公論新社)をお読みになると良いと思います。

この著作を読んでびっくりしたことがあります。欧米や北欧にも、20年ぐらい前までは、日本と同じように老衰状態の高齢者に人工栄養を行っていた歴史があるんですね。てっきり宗教上の理由から行われていないものだと思っていました。

これらの先進国では、その歴史を経たうえで、「余計なことをすればするほど、終末期の苦しみを助長する」と結論づけられ、高齢者の自然死が推奨されるに至ったわけです。

ろうそくの炎が消えるような最期を迎えるには

【中村】なるほどな。私も長年医者をしていた経験から、年老いた人間の最期は、自然に任せておくのが一番楽やと確信してる。

無理に点滴や胃管から栄養を流し込んでも、体が求めていないことをすれば、むくみや床ずれの原因になるだけや。人間はね、ご飯が食べられなくなって衰弱してきたら、自然に頭の働きも弱って、意識もボーッとしてくるから、苦痛も軽くなってくるようにできてる。昔はそうやって家で老人を看取ったもんや。

【奥田】私が若い頃に働いていた、尊厳死医療に徹していたホスピスでもそうでした。食べられなくなった末期の癌患者さんには、点滴で人工的に水分や栄養を入れ過ぎると逆に苦しみが増すので、点滴は痛み止めなど最小限にして自然に任せていました。

人工的に水分や栄養を入れずに、ご本人の体の衰弱具合に任せていると、ろうそくの炎がすうっと消えるように、自然に亡くなっていかれました。

【中村】そうやろ。癌でも老衰でも、できるだけ自然に任せた方がええと思うわ。今の医療の技術で、痛みと苦しみだけとってもらえば、あとは放っておいてもらった方が人間らしく、楽に死ねると思うわ。あ、そうそう、死ぬ間際の心臓マッサージなんかも絶対に止めてやって、子どもに頼んでる。