「そこに奪うものがあるから、奪う」

撮影=駒木明義
プーチン大統領の元経済顧問のアンドレイ・イラリオノフ氏。2014年10月、ワシントン

これこそが、今回プーチン氏がウクライナへの全面侵攻を始めたときに私が思い出した言葉でした。彼の予言は的中してしまったのです。

正直に言えば、8年前の私は、彼の言葉にはまだ半信半疑でした。

プーチン氏がウクライナのクリミア半島を占領した理由として当時取り沙汰されていたのは、第1にかつてのロシア領を取り戻すことで国内の求心力を高めること、第2にウクライナとの紛争状態を作り出すことで、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟できないようにすること――といったところでした。

しかしイラリオノフ氏は、こうした説を一蹴しました。

「経済的理由、政治的理由、安全保障上の配慮、地政学的な理由で説明することはできない。すべてNATOが原因? そんなのは、ばかげた話だ!」

イラリオノフ氏によると、プーチン氏を突き動かしているのは「そこに何か奪うものがあるから、奪う」という理屈であり、「それがどんなに高くつくかよりも、やったこと自体が重要」なのだという。

突然権力と富を手に入れたものは「理性に従って行動するのではなく、子供時代のコンプレックスに突き動かされて振る舞うようになる」。その結果として、プーチン氏の場合は「帝国をつくりだそうとしているように見える」というのがイラリオノフ氏の見立てでした。

今回のウクライナ攻撃をめぐって、私たちはさまざまな理由で説明しようとしています。8年前にも言われたNATO拡大阻止。2024年の大統領選を視野に、求心力を高めようとしている。ソ連の再建。しかし、イラリオノフ氏の言うように、その根底にあるものが理性ではなく、プーチン氏自身の心の奥底に秘められた情念のようなものだとすれば、今回の戦争が最後ではないのかもしれない。

そして、イラリオノフ氏が列挙した「侵略者」たるナチスドイツ、ソ連、戦前日本がたどった運命を思うとき、非常に暗い気持ちにならざるを得ません。