フランス、イタリアが画策する「ユーロ圏の共同債」

さて一方、このまたとない機会に乗じて、フランスとイタリアが、かねてどうしてもできなかったことをやろうと張り切っている。

3月10日、マクロン仏大統領がホストとなり、臨時のEUサミットがベルサイユ宮殿で開催された。フランスとイタリアの懸案はEUの財政改革。つまり、EUの財政の統一である。それが実現すれば、EUが共同で借金できるようになる。南欧の経済悪化組にとってはまさに千載一遇のチャンスであるが、ドイツにしてみれば、金遣いの荒い破産寸前の親戚にクレジットカードを託すようなもの。国民の抵抗も大きい。

ユーロ圏の金融政策を司るのは欧州中央銀行だが、現在、総裁は、仏クリスティーヌ・ラガルド氏で、前総裁のマリオ・ドラギ氏は現イタリア首相だ。彼らが手綱を握る欧州中央銀行の金融政策は、以前より非難され続けていたが、インフレが進み、ハイパーインフレの危険まで囁かれている今でさえ、彼らはマイナス金利を変えようとはしない。

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これではインフレを抑制できないことは自明の理だが、かといって引き締めに切り替えれば、フランス、イタリアなど南欧の財政悪化組がデフォルトを引き起こす危険が増す。つまり、ジレンマでにっちもさっちも行かないというのが、ユーロ圏の金融政策だ。これではお金はますます財政安定国ドイツやオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークなどに流れていく。

「尻拭いは困る」と反対したメルケル首相だったが…

この流れを変えることに成功したのが、2020年のコロナ債だった。コロナで甚大な被害を受けた国々は、自力での復興は不可能だということで、その救済に充てるためのEUの共同公債のアイデアが、初めて浮上した。イタリアが持ち出したアイデアで、赤字国のリーダーであるマクロン大統領が、「これほどEUの連帯にふさわしいものはない」と絶賛。しかし、ドイツは当初、財政規律を厳しくしてきた自分たちが借金国の尻拭いをするのは困るとして、他の財政健全国を束ねて反対に回った。

ところが、この時もメルケル首相は突然豹変し、20年7月に開かれたEUの臨時サミットでは、マクロン大統領と共にコロナ復興基金の設立を呼びかけた。総額7500億ユーロのうち、3900億ユーロは返済なしの給付金なので、イタリアなどは沸いた。一方、前述の財政健全国は、メルケルにはしごを外された形となった。くしくも、この決定は7月、ドイツが欧州理事会の議長国となった途端に行われた。