もちろん、風力や地熱、水素といった再生可能エネルギーに代替させているが、すべては賄えない。そこで、化石燃料ではあるが、石炭に比べてCO2排出が少ない天然ガスに依存せざるを得なくなったわけだ。

こうして脱炭素への移行期における燃料として、天然ガスの重要性は高まった。隣国で、調達コストが安価で済むロシア産天然ガスが、欧州にとっては最適だった。

天然ガスであっても当然CO2は出る。欧州は脱炭素時代の移行期の方策と考えられたハイブリッド車は排除する方針だが、発電に関してはCO2の排出を許した。この点はいかにも欧州の二面性を象徴している。

いずれにしても、欧州は急進的な脱炭素転換に伴うエネルギーのひずみを埋める役割を、ロシア産の天然ガスに求め、依存度を高めていった。欧州が脱炭素で米中などとの競争を制し、主導権を握り続けるためにはロシアが不可欠なものだった。

ロシアのウクライナ侵攻後も、EUは天然ガスの供給に依存している。対ロシアで結束する形を示しながらも、欧州各国の喉元はプーチンに刃を突き付けられた状態は今も継続していると言っていい。

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後戻りはできない脱炭素の隘路

振り返れば、アメリカのトランプ政権はロシア産の天然ガスに依存を強めるドイツに警鐘を鳴らしてきた。メルケル政権はリスクを承知のうえで、戦略的な選択を採ったと見るのが妥当だろう。EUの要、そして脱炭素のトップランナーであるからこそ、ロシアのプーチンに頼らざるを得なかったのだ。

EUはリスクを承知で何を優先したのか。それは脱炭素推進による経済復興であり、今後の脱炭素市場における自国・自地域にとって有利となるルール形成だ。日本や米中に対する産業競争力の優位性を築き上げることを選んだわけだ。新型コロナからの復興という論点も加わり、2021年以降に一気に加速させた。取れる利益が見えたときに、リスクがかすんで見えてしまった。

そこにウクライナ戦争は勃発ぼっぱつした。ソ連の冷静時代から続いてきた相互依存のゲーム理論が崩れることは当面はない、という読み違いだろう。もはや欧州はロシアの天然ガスなしでは機能しない。もし供給を止められても、中国がいる――。プーチンのこうした打算は侵攻直前の中ロ首脳会談の内容からもうかがえる(もちろん誤算も多々あっただろうが)。