睡眠不足が招くパフォーマンスの低下
睡眠不足は、仕事も含めたあらゆるパフォーマンスの低下を招きます。
昨今、ビジネスの世界では「健康経営」というキーワードが使われるようになっています。
病気や体調不良で会社を欠勤することを専門用語で「アブセンティーイズム(病欠)」と呼び、これに対し、「出勤しても、なんらかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態」のことを「プレゼンティーイズム(疾病就業)」と呼びます。
このプレゼンティーイズムにより、全米で年間1500億ドル前後の損失が出ているといわれるほど、無視できない大きな問題になっているのです。
プレゼンティーイズムの主な原因としては、肩こり、腰痛、頭痛、落ち込み、アレルギー、そして、不眠が挙げられます。
「睡眠不足だけがパフォーマンス低下の原因ではないよね?」と思う人もいるでしょう。でも、実は上記の症状のうち、不眠以外の症状は、睡眠不足が悪化させていると考えられるのです。
詳しくは後述しますが、睡眠には「体の痛みを取る」という働きもあります。さらに、すでに触れましたが、「睡眠不足が続くと不安や恐怖を感じやすくなる」ということもわかっています。
また、睡眠の重要な働きとして、免疫機能を高め、ホルモンのバランスを整えることも挙げられるため、睡眠不足になれば免疫機能やホルモンのバランスが崩れ、アレルギー症状を悪化させることにもつながるというわけです。
そのため、先に挙げた肩こり、腰痛、頭痛、落ち込み、アレルギー……それらのすべてが、睡眠不足によって悪化するとも考えられるのです。
ここで重要になるのは、睡眠不足はただ心身の不調を招くだけのものではないということ。なぜなら、それによりプレゼンティーイズムに陥れば、あなたの会社での評価が下がってしまうリスクがあるからです。
元気に働いて、本来の能力に見合った評価や報酬を得るためにも、あらためて日々の睡眠を見直すことを産業医として提案したいと思います。
日本人の約30%が抱える不眠
睡眠不足を招く大きな要因が、「睡眠障害」です。睡眠障害とは、「睡眠になんらかの問題がある状態」のことを指しますが、この「睡眠障害」には様々な症状があり、細かく分類すると、なんと八十数種類にも及びます。
その代表格が「不眠症」です。おそらく、この本を手に取ってくれた人の多くが、程度の差こそあれ、不眠の症状に悩んでいるのではないでしょうか。
不眠症の定義は次のとおりです。ポイントは、「日中に眠気や倦怠感があるか」です。日中に眠気や倦怠感がある人は、次の項目にあてはまるものがないか、チェックしてみてください。
□眠るまでに30分~1時間以上かかる
□眠ったあとに何度も目が覚めて、再度眠りに入れないことがある
□睡眠時間の割に熟睡した気がしない
□起きたい時刻より2時間以上前に目が覚める
これら、どれかの症状が週に2回以上あり、かつ1カ月以上継続しているかが、不眠症の診断の目安です。
きちんと受診して、医師から不眠症だと診断されている人は、日本では約10%とされています。
「多くの人が睡眠に悩んでいるという割には、思ったより少ない?」と感じたかもしれません。でも、これはあくまで「受診して不眠症だと診断された人」の割合に過ぎません。
「きちんと眠れていない」との自覚がありながら病院に行っていない「隠れ不眠」も含めれば、その割合は約20%になり、日本人の5人にひとりが悩んでいるといえます。
しかも、無自覚の潜在患者まで含めれば、その割合はさらに高くなり、不眠症状のある人は約30%になるとも推測されています。
それだけ、「隠れ不眠」とも呼ぶべき人が多いのが実情です。