ナビゲーターを優れたものにするにはクラウドに常時接続し、そこに蓄積されたさまざまな情報を検索しながらドライバーに指示する仕組みが必要だ。ドライバー向けのSiriやAlexaといったイメージだろうか。冒頭の試乗のように近くのコンビニやラーメン店、観光地も即座に調べてくれる。

またクルマの車内外の様子をカメラで撮影し、クラウドに上げれば、ドライブレコーダーとしても使える。そうしたさまざまな情報やサービスをモビリティ向けに音声で提供できれば、競争力のあるプラットフォームとなる。それはNP1に初めて採用された「Piomatix(パイオマティクス)」に結実していった。

撮影=プレジデントオンライン編集部
専用アプリを使えば、車外の人に運転中の様子や現在地を共有できる。

ハードウエア志向からの転換を促した外部人材

現場との議論に半年以上かけてつくり上げた中期経営計画が社員に向けて発表されたのは2020年10月。そのころにはクラウドに常時接続し、ドライブレコーダー機能を持ったNP1のコンセプトは出来上がっていた。それをサービス事業も含めてマネタイズすることが必要だった。

「会話するドライビングパートナー」という自分たちが創りたい夢をどのように実現するのか。矢原社長は「バックキャスティング」で、夢の実現を目指した。

CTOの岩田氏(写真提供=パイオニア)

自分たちが持つ経営資源を積みあげていく「フォアキャスティング」ではなく、夢を実現するには何が必要かを考え、外部も含めて必要な経営資源を集めて非連続に進化する手法である。ライドシェアサービスを始めたUberや民泊をネットで広げたAirbnbはバックキャスティングでサービスを生み出したといわれている。

矢原社長自身も外部人材だが、多くの人材を外部から採用した。2021年3月には旧ジャパンタクシーから岩田和宏氏をCTOと招いた。岩田氏はタクシー配車サービス「ジャパンタクシー」を立ち上げた人物。技術をサービスに落とし込む貴重な経験を持ち、ハードウエア志向が強いパイオニアにとって大きな戦力となった。

「パイオニアの強さを捨てる必要はない」

岩田氏以外にもサービス事業の担当者やソフトウエア開発エンジニアらを積極的に採用した。岩田氏らサービス事業の立ち上げで実績のある外部人材が事業を進める様子を見て、「なるほどそうするのか」「やっぱり変わらなきゃ」とパイオニアの若手、中堅社員らが刺激を受け、チームに加わった。SaaS人材は350名規模の組織となっている。

外部からは必要な技術も導入した。世界有数の対話型の音声認識AI技術を持つ米国セレンス社の自然対話型音声認識エンジンを採用し、車内での円滑な会話を実現させるという。