政策評価と実験を重ねた結論は「虫下し薬」

図表1は、3名のうちの一人であるマイケル・クレーマー氏が同僚と書いた論文から抜粋したものです。この図には、子どもを1年間学校に行かせるためのコストが書かれています。

出典=Kremer, M. and Holla, A. (2009), “Improving Education in the Developing World: What Have We Learned from Randomized Evaluations?,“ Annual Review of Economics, 1: 513-42.

例えば、「School Uniforms」という縦棒の高さを見ると、大体100米ドルぐらいです。これは、子どもたちに制服を配るという方法では、子どもを1年間学校に活かせるために大体100米ドルかかる、ということを意味しています。

この図によると、もっとも費用対効果が大きい(=最も安い方法で、子どもを1年間学校に行かせることができる)のは、「Worms」だということがわかります。これは、虫下し薬の配布のことです。例えば、ケニアでは、寄生虫による体調不良で子どもが学校を欠席することがあります。そこで、研究者らが学校で虫下し薬を配布したところ、子どもの健康状態が改善し、出席日数も増えました(※3)

こういった費用対効果の関係はもちろん最初からわかっていたことではなく、政策評価や実験などで試行錯誤を重ねてきた結果、徐々にわかってきたことです。

(※3)Miguel, E. and Kremer, M. (2004), “Worms: Identifying Impacts on Education and Health in the Presence of Treatment Externalities,” Econometrica, 72 (1), pp. 59-121.

費用対効果のある政策を実現するにはなにが必要か

これは1つの例ですが、日本でも同じようなことができないかと考えています。例えば、再就職率を高める、という1つの目的に対し、実際の政策を検証し、あるいは実験を行い、それらの効果の大きさを蓄積させていくような取り組みです。

そしてその取り組みは、なるべくオープンな形でできればなおいいと思います。私がレポートを一般の方にもわかるよう書いたのも、まん防といった自分たちの生活に直結する話が、自分たちの知らないところで決まっていくことに、多少なりとも違和感を持ったからでした。

しかし、このようなことを実現するためには、現状で少なくとも2つの制約があると考えています。