「風が吹けば桶屋がもうかる」は因果とは言い難い

例えば、まん防によって感染者数が○%減った、などといったときに、この「○%」の数字を埋める作業のことなどを指します。政策評価をすることで、コストとベネフィットを比べることができるようになり、将来的になるべく費用対効果が大きい政策を選べる可能性が出てきます。例えば、感染症数を減らす政策でも、大きな効果があるものから、ほとんど効果がないものまであります。また、同じぐらい効果的な政策でも、コストが低いものから高いものまで様々です。

黒板に溺れる下向きのグラフ
写真=iStock.com/takasuu
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効果の大きさを計算する方法は様々だと思いますが、経済学の分野でよく使われるのは、因果推論の手法です。読者の中には、「因果と相関は違う」という話をどこかで聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

例えば、「風が吹けば桶屋がもうかる」は、それ自体は風の量と桶屋の収入の「相関」を示すものですが、だからといって、それらの間に必ずしも「因果」的な関係があるとは言えないと思います。昔、学生だったころに、ハレー彗星が地球に近づくとゲーム理論が流行る、という冗談を聞いたことがありますが、ハレー彗星の接近とゲーム理論の流行に因果的な関係がある、と聞いて、真に受ける方はあまりいらっしゃらないかと思います。

政策の効果を正しく把握する重要な試み

因果推論の枠組みで効果の大きさを測る、という取り組みは、こういう怪しい関係をなるべく排除し、因果的な効果のみを取り出して、その大きさをきちんと測るということを目指しています(この文章における「効果」とは、この意味で使っています)。

これは、政策にほとんど効果がなかったのに効果が大きかったとしてしまう、あるいは、逆に、効果が大きかったのにほとんど効果がなかったとしてしまうリスクをなるべく減らす作業でもあります。「感染者数が○%減った」と言ったときに、「○%」の部分が、ゼロに近いのか、あるいはもっと大きな数字なのか、きちんと計算しないと、きちんと政策の評価ができません。

最近、私は、政策評価の1つとして、まん防が感染症拡大予防に与えた効果は如何ほどだったのかについて分析しました。使った手法は、因果推論でよく使われる、差分の差分法(あるいは差の差法とも)と呼ばれるもので、使ったデータは、都道府県別のデータでした。その結果を、なるべく一般の方にも理解して頂けるような書き方でまとめSNS上で発表したところ、少なからぬ反響がありました(「まん延防止等重点措置の政策評価レポート」)。