いまだに残る昭和式軍隊野球チーム

【藤田】野球をやる子どもが減った原因の一つにSNSもあると思うんです。昔は殴られたり、怒鳴られたり、長時間練習したり、保護者の負担がキツかったりしても「野球ってそういうもの」「他のチームも同じ」と思っていた部分ってあったと思うんです。

でもネット社会になってSNSが普及して、そういうチームが批判されだして「やっぱりおかしかったんだ!」って気づいたんだと思うんです。それでも昭和時代のような指導を続けているチームがまだまだ多い。いくら子どもに野球をやらせたいと思っても、近隣にそんなチームしかなかったら野球をやらせられないですよね。

撮影=株式会社apricot.h、宇田川淳

【辻】そうなりますよね。

【藤田】そして困ったことにそんな指導をしているチームが強かったりするんですよね。「あそこは昭和の野球だから強い」みたいに言われていたりして(笑)。

【辻】おっしゃる通りで、昭和の軍隊みたいな指導をしている野球からまだ全然切り替わっていないですよね。「楽しくて強い」というチームは皆無に近いです。あと10年経ってやっと同じくらいになるんじゃないですかね、昭和の軍隊みたいな野球で強いチームと楽しくて強いチームの割合が。

【藤田】そこまでいくのに10年かかるのかぁ。

【辻】2021年の秋に4年生の近畿大会を自主開催したんですけど、特別規則に「罵声禁止」って入れたんです。

【藤田】なんかもう面白そうですね(笑)。

【辻】そうなんです。その大会にはある県の代表チームも参加していたんですけど、そこはちょっと口が悪かったり、罵声や怒声が飛んだりするようなチームだったんです。でもこの大会ではそのチームの指導者も保護者も頑張って罵声、怒声を我慢して試合をやってくれたんです。

【藤田】へぇ。そのチームの監督の感想が気になりますね。

「罵声禁止」が軍隊野球からの脱却のカギ

【辻】試合後にその監督さんに話を聞いたら、「こんなに清々しい気持ちで野球ってできるんですね」みたいなことを言ってくれたんです。今までは子どもがミスしたり、負けたりしたら腹が立って仕方がなかったのに、勝っても負けても、相手のチームにも全く腹が立たない。それはお互いに罵声、怒声禁止で試合をやったからなんですよね。自分達の今までのやり方を我慢して野球をやってみたことが結果的に成功体験になったようです。

多賀が所属するリーグの中では、ベンチから怒鳴って子どもにストレスを与えるようなことはほぼなくなりました。滋賀県全体で見たらまだそういうチームもありますけど、強いチームはほとんどそういうことはしないですね。だから他の地域の大会でも要項に「罵声禁止」を入れていけばいいと思うんです。それくらいしないと「軍隊野球」からの切り替えはなかなか進んでいかないですよね。

【藤田】なるほどねぇ。それは面白いですね。

【辻】でも悲しいかな、滋賀県でそれをやっていても全国に全然広まっていかないんです。だからやっぱり東京から変えていかないとダメですね。子ども達がニコニコ楽しそうに野球をやっているんだけど果てしなく強い。

そんなチームがあれば「あそこのチームを真似しよう」ってなると思うんです。それを東京のような影響力のあるところでやらないと変わっていかないですよね。僕も近畿、滋賀でやってきましたけど、ちょっと限界を感じていますから。

【藤田】それはもう「多賀少年野球クラブ東京」を作っていただくしかないですね。

【辻】(笑)。

【藤田】僕も楽しくて強い学童野球チームって多賀しか知らないですから。楽しいけどあまり強くないチームはたくさん知っているんですけどね。だから本当に東京にもう1チーム作ってほしいと思っています。