採用時の「大卒」の要件を撤廃

【山口】そもそも、当社の採用では半分が中途採用です。スキルや人物だけを見るのが自然で、2022年1月からは採用時の大卒要件も撤廃しました。米国IBMでは、大卒ではない社員がすでに20%もいます。D&Iといえば日本では女性活躍だけが議論されがちですが、それは要素のひとつでしかないと思います。ただ、入社した途端そうした考え方になれる人ばかりではないので、もちろん当社の中にも保守的な考え方の人はいると思いますが、みんなでなんとか変わろうと頑張っています。

少子化ジャーナリスト 白河桃子さん(撮影=遠藤素子)

【白河】日本の企業は年齢や年次にこだわりが強くて、昇格も年齢や年次で粛々と動いていくところが多いですね。性別に関してもまだまだバイアスがかかっているのが現状です。取引先の中にはまだ保守的な考え方の企業もあるかと思います。取引先の姿勢に、女性社員への見えないバイアスを感じたことはありますか?

【山口】あります。最近は大きく変わってきているように思いますが、まだ、それを感じることはあります。ただ、新卒時から同質性の高い組織で働いていたら、私も今のような考え方にはなっていなかったと思います。年齢や性別でバイアスをかけてしまうかどうかは、やはり環境の影響が大きいと思います。

米国赴任で経験した「マイノリティの立場」

【白河】バイアスに対して違和感を持つ方は、日本の経営者には少ないですね。山口社長の場合は何かきっかけがあったのでしょうか?

撮影=遠藤素子

【山口】男女関係なく一緒に働くという当社の環境もありますが、個人的には米国に赴任したときの経験が大きいと思います。周りは私から見れば外国人ばかりで、まだ英語力もなく、仕事の面でも生活の面でも疎外感を味わいました。生活の面でも、銀行に入金する方法がよくわからなくて、確かに入金したはずなのに「受け取っていない」と言われたこともありましたね。つたない英語で必死に説明して、最終的には返金してもらえましたが。さらに、ハンバーガー屋さんで欲しいものが伝わらなかった時ですね。どれも自分としては屈辱的でした。今でも苦い思い出ですね。

【白河】マイノリティ体験をされたんですね。慣れない環境に入ると、やはり最初は戸惑いますし、壁も感じますよね。

【山口】その通りで、私は米国に赴任して初めて「マイノリティである自分」を経験しました。米国人ばかりの中で日本人である自分、英語が話せる人ばかりの中で話せない自分に気づいたんですね。でも、上司や同僚はとても優しく接してくれました。当時私の上司は黒人の女性で、今思えば足手まといだったでしょうに、出張にもよく同行させてくれました。以降、私も彼らのようでありたいと思うようになったんです。マイノリティであるがゆえにつらい思いをする、そんな人を少しでも減らしたい。自分がマジョリティだからといって、上から目線で接するのは絶対にダメです。