スズキに似た味わい

天皇は皇太子時代の1960年に、訪米先のシカゴ市長から贈られたブルーギルを日本に持ち帰り、水産庁の研究所に寄贈していた。

ブルーギルは体長10~20センチの北米原産で、主に肉食で繁殖力が強い淡水魚だった。スズキに似た味わいで、当時は食用魚として有望視されていた。

このため、天皇の帰国と同便で持ち帰られたブルーギルは、食糧増産の目的で水産庁淡水区水産研究所が繁殖を試み、滋賀県と大阪府の試験場に数千匹が分け与えられたほか、本州や四国、九州の湖に放流された。

しかし、食用としては定着せず、繁殖しながら分布域を広げ、大繁殖の結果、琵琶湖ではニゴロブナなどの漁獲量が激減した。

日本中で大繁殖しているブルーギル(Lepomis macrochirus)(写真=Fredlyfish4/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

たった15匹から異常繁殖

このため生態系を脅かすブルーギルの駆除のため、水産庁は遺伝子の特徴を調べるよう水圏資源生物学者らに調査を依頼し、全国都道府県の56地点で計1398匹、原産地とアメリカの13地点で計319匹を採取し、ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析した。

その結果、国内で採取したすべてのブルーギルの塩基配列が、1960年に皇太子に贈られたブルーギルの捕獲地であるアイオワ州グッテンベルグの1地点で採取したものと一致した。

食糧難解決のため、国の政策として養殖を目指した結果ではあるが、皇太子が持ち込んだだけに、その説明が難しかった。それも15匹から大繁殖してしまったというのである。

「琵琶湖に迷惑をかけた」との原稿

実は滋賀県の海づくり大会の時の告知ポスターには琵琶湖を泳ぐブラック・バスの写真で在来魚が食べられる被害をPRしたが、同じ「厄介者」のブルーギルは外したという。「陛下との関係を考えると、避けた方がいい」と配慮したかららしい。

大会3カ月前、準備室は宮内庁の求めに応じて、天皇の「お言葉」に関する県の原案を出した。在来魚の漁獲量回復を願う内容だったが、ブルーギルには触れなかった。

ところが、式典2日前の11月9日午後10時半ごろ、宮内庁から県に「お言葉」の原稿がファクスで届き、そこには「琵琶湖に迷惑をかけた」という趣旨の内容があり、地元の関係者を驚かせた。