対策の遅れを名指しされる日本企業
最近までの日本車メーカーはこういう動きをまるで「黙殺」しているかのようだった。その代表格のトヨタに至っては「黙殺」を超えて積極的に「阻止」しようとしている、と海外メディアに報じられたこともある。
グリーンピースは2021年11月のCOP26に合わせて、世界の主要自動車メーカー10社の脱炭素化取り組みランキングを公表しているが、その中でトヨタを最下位に位置づけている。
そうした報道や批判の妥当性についてはさておき、トヨタから発せられる情報に接すると、時に不安にさせられるのは事実だ。
例えば、トヨタの豊田社長は「電動化の担い手はEVのみならずHV(ハイブリッド自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)、FCV(燃料電池自動車)も含まれる」という主旨の発言をしている。
また、「日本の電動化率は35%であり、ノルウェーの68%に次いで世界第2位だ」とも発言したことがある。
しかし、これらは国際的には受け入れられることのない主張だ。HVはエネルギー供給を100%ガソリンに頼っている。モーターは積んでいても、実質的にはガソリン車だ。
PHVは外部から充電できるので現時点では「電動車」として扱われることが多いが、ガソリンを使うことに変わりはない。また、FCVは少なくとも一般向け量産車としては普及の見込みが立っていない。
HVでCO2実質ゼロを目指すが…
もちろん、トヨタのような巨大企業のトップとしては、慎重な発言が必要なのかもしれない。EV化で打撃を受ける部品メーカーにも配慮が必要だろう。
ただ、一連の情報発信に筆者は懸念を深めている。
トヨタはレース出場などで水素エンジンのアピールを始めている。しかし、詳細な説明は拙著をお読みいただくとして、水素エンジンを搭載した市販車が普及する可能性はほとんどない。
他にも2021年4月22日の日本自動車工業会の会見で、豊田社長はEV第一の風潮を批判し、HVにe-fuelを使うことでCO2排出をゼロに近づける重要性を強調したとされる。
e-fuelとは、水を電気分解して得た水素とCO2を合成した液体燃料で、ガソリンに混ぜて使う。再生可能エネルギーを利用して生成することでCO2排出は実質ゼロになる、ということになっている。
しかし、製造過程で多量のエネルギーを使うので、総合的には非常に非効率であり、結果として既存の燃料の何十倍ものコストとなってしまう。
こうした技術評価をトヨタが分かっていないとは考えにくい。2021年末の記者会見で、「EVシフト」を大々的にアピールしたことも考えると、一連の発言は世間の目をEVから引き離すための戦略だったのか、と邪推したくなる。