ホンダは、基礎研究から生まれたアシモを、家庭のような生活空間で人々にサービスをする役割を持たせようと期待した。だが、ハードルは高かった。「安全性をいくら向上しても、アシモが倒れた時に、その下にたまたま小さい子どもがしゃがんでいた、などの不測の事態も起こりうる。完璧な安全は実はものすごく難しいことが20年やってきて分かった」とホンダでは話す。
政府の二足歩行ロボットの月探査計画が立ち消えになったのも、「月面で転んだらどうするのか」などの批判が尽きなかったためだ。得意技の二足歩行が逆にさまざまな場所で働く制約となった。
「モノづくり技術だけ」では世界から遅れてしまう
アシモは日本科学未来館やデパートなどの施設に貸し出されたり、2014年に来日したオバマ米大統領など各国首脳と「面会」したり、さまざまなイベントに駆り出されたりした。ただ、それ以外のビジネスは実らなかった。
産業の中心が、製造業からICTを活用したサービス業へと移行する時代。アシモは今となってはいかにも製造業中心時代を象徴するものなのかもしれない。
少子高齢化や人手不足もあり、多くの分野でロボット利用は今後も拡大していく。国際ロボット連盟は2月、世界の産業用ロボットの稼働台数が2015~20年の間に、毎年平均13%増加した、と発表した。ことに伸びが著しいのが中国だ。
同連盟では、コロナ禍前にはなかったロボットが設置されるなど、自動化の進展がロボット需要を拡大している、とも分析する。培ったモノづくり技術を維持し、さらにAI活用などデジタル時代にふさわしいものを作り、実地訓練で鍛えなければ日本のロボット技術は世界からどんどん遅れてしまう。
「ロボット愛」に惑わされることなく、厳しく温かく、ロボットを育てる必要がある。