理念なき経営は金の切れ目が縁の切れ目

この会社は、理念も志もはっきりしなかった。社長はお金や自身の事業欲のために会社を経営した。とくに、資金繰りに困ってからはその傾向が強くなった。そして、金の切れ目とともに多くの社員が去った。残った者は、苦しんだだけだった。

小宮一慶『経営が必ずうまくいく考え方』(PHP研究所)

社長の金儲けのために働こうと思う社員などいない。それは社長が受けとる恩恵であり、社員はそこに関心など持たない。

社長が自らの仕事に社会的な意義を見出し、志を社員に語り、皆で共有していたなら、この危機にあっても頑張れたかもしれない。もしかすると、社員の踏ん張りで奇跡を起こせたかもしれない。もっと言えば、高い志や理念があれば、こんな危機に陥らなかったかもしれない。

もちろん、奇跡は起こらなかった。翌1998年の1月最初の営業日、会社は倒産した。年末に期日を迎えた手形を落とせなかったのだ。銀行の仕事始めだったその日が、最後の日となった。

この一件を経て、私は以前にも増して、経営者の志や会社のビジョンや理念を重要視するようになった。

会社の強さの原動力となるのは、そこで働く人たちの「働きがい」にほかならない。働きがいの一番の源泉は、お客さまや働く仲間、ひいては社会に喜んでもらうことだ。もちろん、お金も働きがいの源泉とはなるが、仕事そのものの喜びを感じることが先決だ。

「働きがい」という言葉を思うとき、私の頭の中には、いつもあの白いセルシオがよみがえる。

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