片脚のないメス猫は、出産を繰り返していた

「野良猫の不妊去勢手術を行う」というふれこみで、地域の人はそれぞれの場所で猫を捕獲するのだという。私が取材した日、茨城県石岡市のクリニックには44匹の野良猫が運び込まれてきた。飼い猫ならば1匹あたり数時間かかる不妊去勢手術を、獣医師2人とボランティア2人の手によって1日で44匹分終わらせるのである。ちなみにこの前日は67匹だったという。

しかも取材日は、前片脚の足先半分がないメス猫が混じっていた。真っ赤な断面から骨がのぞいている。農家の人が庭で餌やりをして居ついた猫だそうで、誤って農業機械で猫を轢いてしまったとの話。

「いつのことですか?」と尋ねると、なんと「2年前」とのこと。農家の人は、自分で轢いておきながら2年間もこの状態で放置していたということだ。しかもその間にこのメス猫は出産を繰り返していたという。生命力の強さに驚くとともに、この身体での出産はかなりの負担だっただろうと胸が痛む。

本来であれば手術費用は10万円超なのだが…

「野良猫だから手術をするという考えがなかったそうなんです」と鈴木さん。

「このケガの手術は不要、不妊去勢手術だけをお願いしますと言われました」

そうは言っても、脚が切断されたままの猫の様子は見るに絶えない。齊藤朋子獣医師は手術を行うことを決断した。肉から飛び出ている足を切断し、丁寧に縫合する。1時間半を要した。動物病院でこの手術を行う場合、費用は10万円を超える。対して今回、捕獲した人が負担する手術費用は1万3000円だ。

撮影=笹井恵里子
手術を行う獣医師の齊藤朋子さん

齊藤獣医師は「私たちにとっても勉強になることですから」と補足する。

「過酷な環境で生きている野良猫にはさまざまな外科手術が発生します。ただそれらを無償で請け負ってしまうと、手術に使う物資にお金がかかってこちらも苦しくなるので、最低限の手術代はいただいています。昨日も子猫の目を摘出する手術をしたんですよ。中から膿がわいていて……。不妊去勢手術をする時に抗生剤を使用するので、それでいったんは目の症状もおさまる可能性があります。けれどもまた再発して、繰り返すと死んでしまう状態でした。それを説明すると、猫を運び込んできてくれたボランティアさんが目の手術代を負担することを含めて了承してくれたので、無事行えました」