(2)誰に対して何のために書かれたものか、わかりにくい

教育データ利活用ロードマップは、簡単にいえばプロ向けのものである。

つまり、政府DXに関わる官民双方の関係者にとっては有用性が高いものである。

私自身も、子供のデータ連携は教育データとの関連性で、どのようなデータが収集可能であり、だからこそ個人情報保護やアクセス権の厳格管理について、どのレベルでどのようなルールを作っていくべきであるか、ロードマップのp.19を見ながらより詳細にイメージすることができた。

この炎上は、簡単にはおさまらない

いっぽうで、政府DXやデジタル政策に詳しくない国民・住民、とくに大学入試で主体性の評価などに活用する目的で運営されていた高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」運営中止の混乱を経験した教員、保護者や若者にとっては、このような図によって「政府が子供のデータを一元管理しようとしている」ことを警戒する心情はよくわかる。

くりかえしておくが、教育データ利活用ロードマップでは、「政府が学習履歴を含めた個人の教育データを一元的に管理することは全く考えておりません」と、データの一元的管理を明確に否定している。

しかし、先述の「JAPAN e-Portfolio」利用にあたっては、教育情報管理機構のもとでシステムの運営を担った民間企業が発行するIDの取得が必要だったため、企業への利益誘導につながる懸念を示す学校関係者は多かった。文科省も機構に是正を要請した。また教育現場では、システム導入に便乗したかたちで別の自社商品の営業活動が強化された。当時の記憶が新しい彼らにとっては、民間事業者による児童生徒の学習履歴データ(児童生徒の学習アプリ等へのアクセス履歴)も同じ図に入っており、民間事業者も学校で収集している子供のデータにイージーアクセスできるかのような(実際にはそのようなことは個人情報保護法により不可能だが)イメージを持ってしまうのである。

教育データ利活用ロードマップの炎上が簡単にはおさまらない原因が、ここにある。

“ハイコンテクスト”なプロ向けの政策文書が、一般の国民や、たとえば児童生徒や保護者にオンラインでいきなり読まれる現代社会においては、その”いきなり感”の引き起こす不安は、よほど注意深い情報発信戦略を立てて発信していかなければ、簡単には解消できない。

その意味では教育データ利活用ロードマップは、デジタル政策の文書としては重要だが、情報発信戦略としては失敗している。

すでに一般向けのQ&Aをデジタル庁は迅速に公表しているが、広報部門の充実と、プロではないジェネラルユーザーに伝わる広報戦略をデジタル庁はじめ関係省庁には期待したい。

デジタル庁幹部の発信にのみ依存するようなことがあってはならない。

※編集部註:初出時、記事内でベネッセコーポレーションについて触れた箇所は、事実関係の確認が不十分でした。当該箇所を削除します。関係者のみなさまにお詫び申し上げます(2022年2月4日10:00追記)