親が健在でも口座凍結の可能性があった…

「父は、身体が不自由で銀行まで来ることができません。それに、脳梗塞の後遺症で認知症もあり、字を書いたりはっきりとした金額を伝えたりするのは難しいです。それで、息子の私が来ているのですよ」

と伝え、リフォームの請求書を見せようと思った矢先、

「口座名義人の方が認知症と判明した場合、お客様のご預金をお守りするため、お取引を停止させて頂くことがあります。ご本人様が詐欺などのトラブルに巻き込まれてしまうのを防止するためです。ところで、成年後見人は利用しておられませんか?」

“詐欺? 成年後見人?”木戸さんは突然の聞き慣れない言葉に、何がなんだかさっぱり分かりません。まして、自分の親に後見人をつけることなど理解できません。

「利用していないですけど……」

と答えると、担当者から

「上席の者に確認致しますので、後ろでしばらくお待ち頂けますか?」

と、一度後ろの座席に戻るよう促されてしまったのです。

写真=iStock.com/LukaTDB
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木戸さんは、“しまった!”と思わず声が出そうになりました。

確かに、相続のときに葬式代が引き出せないことがあるとは聞いたことがありました。しかしながら、親が健在な場合にまで凍結の可能性があったとは寝耳に水です。父親の代わりに支払いをしようとしただけで、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったのです。

もし凍結でもされたら、家族が父親の生活費や介護費を本人の口座から支出することができなくなってしまうではありませんか。ごく稀に、家族が立て替えることはあります。しかし、あくまで少額の場合だけです。

今回のように大きなおカネまで立て替えるわけにはいきません。立て替えてしまうと今度は自分たちの生活が成り立たなくなります。木戸さんの子どもは大学生のため、今は教育費におカネがかかっているのです。

この先どんな末路となるのか、リフォームの請求書を見ながら“しまった!”と何度も心の中で叫びました。

なぜ本人確認が厳しくなったのか

現在、各機関で本人確認が求められています。役所、金融機関、保険会社……。

事あるごとに本人確認資料の提示が必要となり、本人との面会が必須となるケースもあります。

一昔前であれば、必ずしも本人が手続きに行かなくても家族が代行できた事例もあります。例えば、子どもが親の通帳と印鑑を持って代わりに預金を引き出すことができていました。

ところが、最近は本人確認が非常に厳しくなっています。顔写真入りの証明書を求められて苦労したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

先ほどの事例にあったように、親のための支出であっても、本人の確認なしに高額な費用を家族が引き出せる可能性は低いです。近年では、本人が認知症であると判明し、口座が凍結されてしまうケースも報告されています。

なぜ、しきりに本人確認が求められるようになったのでしょうか?

その背景としては、2つのことが考えられます。