犯罪防止のため慎重にならざるを得ないが…
1つは、犯罪収益移転防止法という法律が制定されたことにあります。この法律は、別名本人確認法と呼ばれます。
元々は、マネー・ロンダリングの防止や資金がテロリストに渡ってテロ活動に使用されることを防ぐための法律です。テロは国内だけではなく、国際的なネットワークがあるとされています。そこで、テロ活動に資金が流れることを防止するという国際的な規制が求められる中で、我が国においても法整備が行われたのです。一般市民に対し、テロのことを言われても正直ピンとこないかもしれませんが、広く規制の網がかけられた状態となっています。
2つ目は、いわゆる“振込め詐欺”といった犯罪の横行です。犯罪集団は、手を替え品を替え高齢者の資産を狙っています。警察等から注意喚起されているにもかかわらず、年々手口が巧妙化しており、金品を騙し取られる高齢者が後を絶ちません。老後の資産があっという間に奪われてしまう悪質な犯罪が、高齢者の周りには潜んでいるのです。
一度、犯罪集団にお金を渡してしまうと、お金が戻ってくる可能性はかなり低いです。このような状況では、金融機関は慎重にならざるを得ません。
以上のようなことから、年々本人確認が厳しくなり、本来であればテロや詐欺とは無縁なはずの平穏な一般市民の生活に影響が出ているのです。
ただし、預貯金のことであれ不動産のことであれ、本人の“意思確認”は慎重に行うべきです。なぜなら、財産をどうするかの決定権は、最終的に本人にあるからです。いくら家族であっても、本人の意思に反した行為は、法的に問題があります。
しかしながら、認知症高齢者の増加によって、肝心の本人の意思確認ができないという大きな壁が立ちはだかっているのです。
スムーズに対応できる窓口があまりに少ない
先程、高齢者の財産を狙う振込め詐欺について少し触れました。この犯罪を阻止するため、金融機関が高齢者の預貯金の引き出しや振込みに慎重になるのは仕方ないことではあります。
その一方で、金融機関の高齢者や認知症への対応については、見直すべき段階になっていると筆者はみています。というのも、これだけ高齢化が進み認知症や相続に関する案件が増えているにもかかわらず、スムーズに対応できる窓口が少ないからです。
まず、支店に認知症や相続案件に対応できる担当者があまりに少ないです。本人が認知症の場合の対応や、相続手続き全体の流れや、何から手をつけるべきかといったことを説明できるスタッフが果たしてどれだけいるのでしょうか。
もちろん専門職などではありませんので、事細かな解決方法まで提示することを求めているわけではありません。しかし、これだけニーズが増えている中にあっては、窓口に来た人、特に高齢者に対しては分かり易く丁寧に説明する責任があるのではないでしょうか。