国営企業の従業員たちが拡散

ネット上には、トロール・ファームと呼ばれる企業や集団などが暗躍している。こうした組織は偽情報をあたかも信頼できる情報のように広め、特定の政治的見解を普及させてゆく。ウィルソン・エドワーズに代表される一連のネットワークも、国家の意志を受けたトロール・ファームによって仕込まれていた可能性が疑われる。

メタ社は調査の過程で、これらのフェイク・アカウントが中国企業によって作成されたことを示す手がかりを発見した。アカウント間の友人関係を分析したところ、中国の四川省成都市にあるIT企業、および複数の中国インフラ企業の海外拠点とのつながりを見出したという。このうち成都市の企業は同社のウェブサイト上で、中国公安当局のIT支援部隊を名乗っている。

調査レポートのなかでメタ社は、大元となったウィルソン・エドワーズの偽アカウントと、「その他数百の信頼できないアカウント」に混じり、複数の「本物のアカウント」が拡散に関与していたと述べている。本物のアカウントのほとんどが、「4大陸にまたがる、中国国営インフラ企業の従業員たち」が所有するものであった。

メタ社はこれまでにも継続的にフェイク情報の精査を行なっているが、「公務員の集団を含む人々がこのように協調し、互いに影響力を増幅するという作戦を我々が発見したのは、今回が初の事態」だとしている。同社はウィルソン・エドワーズを核としたフェイク情報の拡散を「信頼できない」目論みであると捉え、「中国発の、多方面を巻き込み、そしてその大部分が失敗に終わった」作戦であったと結論づけた。

SNSを通じたプロパガンダが本格化

民間人を装ったSNS上のプロパガンダについては、本件以外にも活動が活発化している。新疆ウイグル自治区をめぐってもツイッター上に多数のフェイクアカウントが作成されており、ツイッター社は中国側の関与が疑われる2160件のアカウントを閉鎖した。当該のアカウントは、虐待は嘘であるとの主張や、ウイグル人を名乗って海外の政治家に反発するコメントを投稿するなどを繰り返している。偽アカウントによる総ツイート数は3万件を超える。

これらアカウントの多くは、元々ポルノなどを配信していた古い休眠中のアカウントを再利用したものだ。無関係のフォロワーに強制的に情報を配信するための手段として、このような手法が存在する。専門家は英ガーディアン紙に対し、「恥ずかしい」プロパガンダ作戦だとの所感を述べた。

プライベートやビジネス上のコミュニケーションツールであるべきSNSだが、その浸透に伴い、国家の情報戦略として利用されるケースが出てきているようだ。

Swiss embassy searching for Wilson Edwards, Chinese state media darling
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
関連記事
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
「コロナ発生初期の記録が次々と削除されている」中国の"隠蔽体質"を一次資料から検証する
パンダ、トラ、シマウマ、イヌ…中国人がいつまで経ってもゲテモノ食をやめない理由
「皇帝の嫡子を産んだ母は殺せ」「前皇帝も一族も殺せ」1600年前の"危ない中国"を知ろう
「中国マネーより正義のほうが重要」女子テニス協会が"たった1人の告発"を優先したワケ