安全保障技術の推進に立ちはだかった日本学術会議

最初に手を打ったのは渡辺秀明防衛装備庁長官(初代)であった。

防衛省の技官は、戦後の強い平和主義の中で孤立した技術集団であった。彼らも民生技術の急速な進展が安全保障環境を急激に変えていることに危機感を抱き、「安全保障技術研究推進制度」を立ち上げて、なけなしの予算から100億円を積んで、学術界や産業界との研究交流を推進しようとした。安全保障技術研究推進制度は、研究内容に防衛省が介入することもなく、また、研究成果は自由に公開可能な研究交流制度である。

兼原信克『日本の対中大戦略』(PHP新書)

しかし、驚いたことに、内閣府の一員である日本学術会議が、突如、一方的に厳しい反対声明を出した。政府内の意見調整など全くなかった。その結果、ほとんどの国立大学(さらには私立大学)及び国立研究所が防衛省の交流の呼びかけに背を向けた。

日本学術会議は、制度上は内閣府の一員である。司法府のように独立しているわけではない。どうしてこんなことになるのかといぶかったが、経緯を調べていくうちに、日本学術会議は、吉田茂総理、中曽根康弘総理、安倍晋三総理という3代の大総理が、戦後、一貫して問題にしてきていた組織だと知った。

大学の自治、学問の自由という看板の陰に隠れて、イデオロギー的傾斜と国家予算から支出される大学運営費(年間8000億円)という巨大な既得権益の塊とが厳然と残っており、それが戦後三四半世紀の間、日本の科学技術と安全保障をほぼ100パーセント遮断してきたのである。

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