毎年、春に売れる不思議な本
私の著作を大別すると3つの流れがある。1つはきわめて個人的なことを書いた本である。その時々に考えた人生観や生き方、発想法や思考術、家族や子育て、遊び心、旅など、その都度違うテーマで、エッセイ的なものから啓発書的なものまでいくつか書いてきた。
このジャンルの最初の1冊は『悪魔のサイクル』(1973年)で、『加算混合の発想』(80年)『親が反対しても、子供はやる』(96年)『やりたいことは全部やれ』(2001年)などが代表的だ。
しかしこれらは私の著作の本流ではない。言ってみれば3番目のグループである。ではメインストリームは何かと言えば、やはり経営書だろう。
マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントの視点から、会社経営とはいかにあるべきか、経営環境がどう変わってきたのか、これからの経営者はどういうことを狙うべきなのか、といったことを時代状況や経営環境の変化に即して説いた著作は多い。
その原点は75年、当時のダイヤモンド・タイム社(現プレジデント社)から出版した『企業参謀』である。
米マサチューセッツ工科大学の博士課程と日立製作所で原子力工学を専門にしていた私がマッキンゼーに入社したのは29歳のとき。右も左も分からない畑違いの世界に飛び込んで、経営について自分なりに気付いたことや学んだことを約2年間メモに書き留めていた。それを活字にしたのが32歳の時に出した『企業参謀』だ。
この本は不思議な本で、35年以上前の本なのにいまでも企業研修などでテキストに使われていて、春先になると売れる。81年には英訳本(“The Mind of the Strategist”)がマグロウヒルから出版され、今日では各国語に訳されて世界中で読まれている。ビジネススクールでもよく教科書に使われている本だ。
以降、『ボーダレスワールド(89年“BorderlessWorld”)』『新・資本論』(01年、原題“The Invisible Continent”[見えない大陸])や『新・経済原論』(06年、原題“The Next Global Stage”)など、英語の著作のほとんどは経営書のカテゴリーに入る。